ここはぬばたま。

駄文の部屋。

お題:特別企画! お気に入りの秘蔵書物紹介の巻
ブックマークやお気に入りへのご登録はTopPageに→[■TOP]

▼蔵書No.4▼

タイトル : ルポ・精神病棟 (朝日文庫)
著 : 大熊 一夫
種類 : 文庫

<独評>
 精神病についていっそう深く考えさせられる作品。

 著者が単身、精神病院に患者を装って潜入し、その扱いを克明につづったドキュメントをまとめた本。E・クレペリン著による「精神医学百年史」という本の内容ははるか旧世代の実態であると考えていたものが、現代まで続いているという衝撃の事実に驚かされます。病院という監獄の中で、頼るものなく物のように扱わされる精神病患者たち。実利主義に重きを置いた精神病院の腐敗、要領のよさが必然悪の社会、それらの病院を実名で告白し、社会論争を呼んだ一冊。聞き覚えのある著名な病院の実態が浮き彫りにされています。

 そもそもその根本は、当時の国が病院に対して支払う資金の仕組みに問題があり、患者が増えるだけで給付金がふえ、病院に金が入る。患者のためではなく、利己的な欲求を優先しているような病院なら、当然、儲けの手段と考えます。社会的な厄介者を請け負っていますよ、という偽善と引き換えに金を受け取る一種の人身売買とは考えられないでしょうか。昨今、病院の仕組みがめまぐるしくかわっているのも、こういった地道な証拠が積み重なっての到達と考えるべきです。

 ちなみにこの本を読んで、管理人は精神医学に傾倒しました。何年か前は、そういった類の本を古書店で見つけては目を通していたものです。ついには分厚いハードカバーの「DSM−W(定価二万円也)」まで購入しましたが、あまりに医学的すぎて読破かなわず、ひまなとき開いて読んでいるくらいです。

 1980年の本。今となっては古いものである、と願いたいものです。著者はほかに「新ルポ・精神病棟」や「ルポ・老人病棟」も書いています。



[前の本へ]     [次の本へ]
[目次へ]
www.youraddress.jp / Mail