洛陽の花 <短編集>
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外の空気は新鮮で、澱のようにまとわりついた臭いを霞ませてくれる。
街を行く人間は希望に溢れているようで、明るい声で明日の予定を話し合う。
一日先の未来。
自分はいつまで、この生活を続けていくのか。
分かるはずのない答えを考え、夜の冬の寒さに震える。
上着も着ずに外へ出てきたらしい。
近づいてきた野良犬が、足元からのぞき込む。
「何もないよ…」
嫌がるそぶりも見せず、野良犬は素直に骨ばかりの手を受け入れた。
首輪が巻き付いている。
この子にも、かつて主人がいたのだろう。
その主人に見捨てられても、この寒空に主人と似た者に近付き、餌を求める。
長年連れ添ってきたお前の主は、いつお前を見限ったのだろう。
お前は見捨てられても、まだ主人を待っているのか。
哀れと思うと同時に、自分もまた、そのような薄情な感情を内に秘めていることを自覚して同罪だと思った。
妻は何故、生きているのだろうか。
私は何故、生きているのだろうか。
空を見上げた。
何かのせいにすることで、楽になることは理解している。
けれど、どれも慰めにもなるはずもない。
酒の暖かみが薄れていく中で目を閉じる。
瞼の裏で、妻の姿はあの頃のまま、笑ってくれた。
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