洛陽の花 <短編集>
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テレビをつければ、自分の未来の姿が映し出される。
夫が妻を殺したと。
真面目な表情をしたアナウンサーが眉間に皺を寄せ、無責任なゲストが最もらしい饒舌をふるい、「ありえない」と連呼する。「ありえない。夫が妻を殺すなど」
何を分かっている。
こいつらは、何を分かった風な口を聞いているのだ。
酒を呑む量が増えた。
買うのは安酒ばかり。
一人で酌をし、暗い部屋で誰とも喋らず、ちびちび飲んでいるだけで、いつの間にか一升瓶が空になる。
酒、と呼びかけても、返事をする者はない。
酔った足でふらつきながら、外へ出かけて酒屋の場所の記憶を辿る。
妻の前を通り過ぎても、何一つ反応はない。
わき上がってきた衝動に、手を振り上げて、振り降ろす。
やり場のない怒りを、ものも言わない妻にぶつける。
最低な人間だと、自分自身をののしりながら。
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