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大蒜を煮詰めて煎汁をつくり、そこに布をひたして患者の患部、つまり肺のある位置に当てる。大蒜はその強い臭いに負けず劣らず効能の幅も広い。
うまいこと甘草も見つけた。こいつは様々な病に効く漢方の王様だ。根茎の部分を同じように煎じて、服用させると効果がある。
「…だいぶ、よくなったようです」
まだ熱はあるものの、赤みの戻った頬を見て、シュミさんは胸をなで下ろした。
「驚きました。薬学の知識がおありなのですね」
「まぁね」
俺は曖昧に頷いておいた。
「ものが食えるようになれば、生姜を湯で溶かして与えるといい。回復が早まる」
「あ、はい。……あの、これ」
シュミさんが差しだした手の中には、見覚えのある金バッジがキラリ。
「お返しします」
真剣な眼差しを見下ろし、「…ふぅ」ため息をつく。
「……惜しくねぇのか?」
「ええ」
「そいつは嘘だな。顔にかいてあるぜ?」
…………。
無駄か。
「なぁ、シュミさん。疑ってるなら前もって言っとくが、そいつはまっとうなルートで手に入れた品だ。誰もケチなんざつけねぇし、俺が感謝の気持ちを込めて渡した代物だ。今さら返されても」
「貴方は、あの子を助けるために尽力してくれました。私には、それで十分です」
「けど」
「いい人ですね、貴方は」
シュミさんははじめて、俺の前で屈託なく笑って見せた。面食らった俺は、言葉に詰まる。
「私に救える命の数は少ないけれど、それでも救えた命の分だけ、私は自分に誇りが持てます。一人の医師として、一人の人間として、私が私であるための生き方を、胸を張っていたいんです」
気づくと、俺の手の中に金色の勲章が戻っていた。
「我が侭かもしれません。けれど、許してください」
俺は何も言わずに握りしめ、「わかった」とだけ言った。
「またいらしてください」
俺は片手を挙げて、それに合図した。