「ファウスト〜殺戮の堕天使〜」

三章 ある娼婦の死

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――ぴちゃっ。

 冷たい。

 雨かよ。くそったれ。

 …………

 野郎、逃げやがったか。

 いや――見逃したのか

 ざまぁねえや。

 身体中ズタボロだ。

 このまま野ざらしになるのも悪かねえ。

 …………

 違うだろ。

 やることがある。

 受けた借りは返さねぇとな。

 命の代価は高くつく。

 こんなところで油売ってるワケにゃいかねえ。

 いますぐ仕事にかからねえと。

 立てよ。

 立つんだ俺。

「……ふぅ」

 よし。

 タフな身体に感謝。

 だが参った。

 ほとんどの霊的中枢がイカレちまってる。

 これじゃ当分『道』は無理だな。

 頼みは己の拳と”女神様”の微笑みのみ、ってか。

 ……雨で時化(しけ)ってねえといいけど。

――パシャ

 おっと。

 しっかりしろよ。

 歩くぐらいは出来るだろう?

 止まっていると危ねぇんだ。

 身体が冷えている。

 傷口からは血が止まらない。

 眠っちまえば二度と目は覚めないかもしれない。

 起きてることが奇跡みたいなもんだ。

「……はぁ」

 とんだ災難だ。

 俺の任務は『死者の書』の奪還だ。

 そのためにこんな中央くんだりまで出張ってきた。

 心当たりにアテもつけた。

 あとは有意義に遊んでりゃ、『死者の書』が転がり込んでくる。

 そう踏んでいた。

 だが――

『ゲームをしよう』

 あの野郎。

 まだ死ぬには早すぎた。

 あの子なりの悩みもあった。

 それを心配してくれる家族もいた。

 あの子には、まだ生きていくべき価値があった。

(……ムカツクゼ)

 火ィ、ついた。

 いいだろ。

 ゲームにのってやる。

 倍率(レート)は破格だが、負ける気はねぇ。

 おにいちゃんが、仇を討ってやる。

 心配ねぇさ。

 あいつのツラなら、もう見てる。

 次こそ、仕留めるさ。

 これでも、プロなんだ。

 




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