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――僕は、何をしているんだ?
地面の上にしゃがみ込んで、手の中の柄を握りしめる。
――僕は、何をしたんだ?
歪んだ視界。熱い雫が、目から溢れて止まらない。
幾つもの視線を、肌で感じる。その一つ一つが鋭く研がれた槍のように、早鐘を打つ心臓をつき刺してくる。
顔をあげるのが、怖かった。
――何で、こんなことになったんだ。
赤い光。熱い身体。歪む視界。痛む背中。目の前が真っ赤になって、夢中で振り回す。
何かをひっかけた。誰かの悲鳴。嘲笑。狂気。怖い。視線。恐い。視線。嗤うな。僕を、嗤うな。僕を、嗤うな!
「身の程をしれ、”唐変木”」
黒い影が嗤う。
「まるで寄生虫だな、貴様は」
違う! 僕は、
「威を借りた狐め」
違う、僕は、
「貴様のような奴は死んだ方がマシだ」
そんな、僕は……精一杯やってるんだ……
なのに、だれもわかってくれない。
父のように、兄のように、その武勲と功績で、誰からも賞賛と礼賛の言葉を浴びたい。
目の前にある背中を追いかけて、夢中で剣を振るった。
あの頃に戻りたい。
名門の恥さらしだと、陰口を叩かれていることぐらい知っている。剣の試合では、腰が引けてる僕をみんなが笑う。母は忙しい。他の兄妹たちにちやほやすることに、忙しい。
いつも独りきり。
慣れることのない、孤独の暗闇。
言葉が、頭の中でぐるぐると渦を巻く。紛れもない事実。わかってる。過酷な現実。弱い僕。雨に打たれて腹を空かし、静かに死んでゆく捨て犬の末路。
どうして僕だけ、こんな目に会うんだ。
――イキテイルノガ、トテモクルシインダ。
この生き地獄から助けてくれるのなら、悪魔だって構わない。捨て犬だって、拾われた恩は忘れない。
もう、独りになるのはいやなんだ!
ふと、滲んだ世界に影が射した。
ふわりとした、春風のような風が、頬をなでる。
「――顔を上げなさい。勇敢なる騎士よ」
頬に触れた風は、確かな質感を持って涙で濡れた頬に当てられていた。
それは、柔らかな手だった。白くて綺麗な、どこか懐かしい手のひら。
顔を上げて、息を呑む。
見たこともない美しい顔が、そこにあった。輝くような光を放ち、自分を見つめる黄金色の瞳。ヴェールの隙間からのぞく、軽くウェーブのかかった金髪。そのどちらも、陽光を受けてきらきらと輝いていた。
彼女は涙をすくいとると、首から下げた”銀の十字架”に両手で包み、小さな声で祈りを捧げた。
静かに黙祷を続ける聖女の、近づきがたい神聖さに、誰もが我を忘れて見入った。
呆然とした呈で、ウッドマンは目の前に佇む女性に呟く。
「あなたは――」
「あなたの苦しみは、今救われました」
ほころんだ口元が浮かべた気高い微笑みに、騎士の胸が高く踊った。
「哀れな羊よ。あなたはもう、迷うことはない」