「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

「フォーム・ソード」
 のばした手の先が鋭角的に変形し、厚みが薄くなると輝きをはしらせた。
 片腕が切れ味鋭い両刃の剣に形を変える。
「穂ノ原!? おまえ――」
 刃の先をシュトレイマンの喉元へ突きつける。
「なにしてる!」
「性能テストだ」
 如月は冷たく言い捨てる。
「悪質な冗談を言わないで頂きたい」
「性能テストだ」
「……一応、僕も司法側の人間なのだが。発行元は経度150度ほど東にそれた場所だが」
 目の前にある鋭い刃を見つめながら、シュトレイマンが呟く。
「脅迫罪が適用されるのは日本でも同じかな、六道警部補」
 ナムは自分の上司を見たまま、「…ああ」と言った。
「脅迫? 性能テストだと主張している」と如月。
「穂ノ原! その手をどけろ」
「ノー。課長はマスターではありません」
 普段とは異なる感情のない声が答える。
「部長! やめさせてください!」
「最初からこうすれば良かったな」
 如月は穂ノ原と同じくらいにフラットな声をだすと、僅かに唇を曲げた。
 笑っている。
「僕を馬鹿にしているね?」
 シュトレイマンは怒りを顕わにした。
「何の用意もなく、一人でノコノコやってきたと思われていたとは心外だ」
「何かあるのか?」
「言わなかったか? 僕には優秀な部下がいる。彼女には指定時刻まで僕が戻らなかった場合、この件をメディアに告知するよう指示してある。この国の閉鎖主義じゃない海外のマスメディアにね」
 如月が目を閉じた。
「RDW――戦闘解除リリース
「YES。マイマスター」
 穂ノ原が腕を引き、鋭利な刃物は人間の腕へと変態する。
 とんっ…と軽快にテーブルを蹴り、如月の後ろへ控える。
「失礼」
 眼鏡を押しこみながら、如月が頭を下げた。
「ちょっとしたジョークです。お許し下さい」
「悪ふざけで済ます気とは、貴方もたかが知れている」
 シュトレイマンはよほど気にくわなかったのだろう、余裕が消えた口調で言葉を吐き捨てた。
「性能テストです」

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