「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

「――公共場所でのバイオロイドの試用運転は国際法違反です。それはいまだクローン技術が国際倫理委員会の了承を得ていないからであり、それら技術開発における最重要項目である人間の複製、もしくはそれに基づく研究開発はすべて国際倫理審査機関への許可、及び受諾を経て、指定敷地内での運行のみを目的として、厳重な警戒態勢の元でテストすることが義務づけられています」
 ぺらぺらとテクストでも読むように喋る。
「だからなんだ?」
 ナムは冷静に突っ込んだ。
 いくらか気分を害した様子のシュトレイマン。
「説明をしているときは黙って聞きたまえ。義務を破ったものには各国の司法機関を通じて厳罰が科される。最たるものがバイオ産業にかかわる一切の活動停止処分だ。それがもし会社であるなら、そこに掛けたコスト、人材、開発物のすべての破棄が命じられる。”生命をもてあそんだ罪”の処分だね。勿論それ以降もその他の分野で活動は続けられるが、貼られたレッテルはそうそう拭えるものじゃない。経営とは取引による収益の獲得だ。信頼の欠けた会社の存続は簡単ではなくなるだろう」
「それがなんだ? それとおまえと部長で取り交わされた内容に何の意味がある?」
「先走ると必要な情報を見失うぞ」
 シュトレイマンが低い声でナムに警告する。
「俺たちはあんたの講釈を聞きたいわけじゃない」
「日本の警察官はそれだからいけない。取り入れられる情報はあるならあるだけいい。後からいくらでも真偽のほどは調査可能だからだ。話したいだけ話させて、矛盾や論理破綻をついて心理的に追い詰める。心理学の一つも勉強したらどうだ?」
「こっちは忙しい身でな。あと8分しかないぞ」
 時計を示してやる。
 舌打ちするシュトレイマン。
「……要は、クローン技術を用いたバイオロイドは違法だということだ」
「そのバイオロイドがどうした?」
「勘の鈍い男だ」
「ここにいる」
 如月だった。
「穂ノ原君」
 呼ばれた穂ノ原が「ほえ?」と返事をする。
「脱ぎ給え」
「はぁ!?」
 思わず素っ頓狂な声をあげるナム。
「ぶ、部長、さすがにそれは、まずいのでは」
「ふむ。訴えられてもまず勝ち目がないレベルだ」
 落ち着いた様子のドクが頷く。
「話すよりも実物をみてもらったほうが納得いくだろう」
 如月は冷静に告げると、
「RDW。フォームクリーンだ」

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