「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

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 睡眠時間は三時間だった。
 ドクを連れ、特7課のオフィスへ辿り着くと、挨拶もそこそこにまっすぐ執務室へ向かう。みゅみゅは眠っているのをそのまま置いてきた。起きたら寂しがるかもしれないが、ついてこられるよりマシだ。
 オフィスにはなぜか椅子を数個並べた即席ベッドの上でガリとブッチョが惰眠をむさぼっていた。なぜこんなところにいるのか。
 ドクに追い出すように言い置いて、コートを適当な机の上に放り投げる。
 扉を開けると、昨日と同じ二人が居た。
「…お早うございます」
 憮然としながらも如月の前なので形だけは頭を下げる。
「good morning.昨日はどうも」
 相も変わらず皮肉な調子でシュトレイマンも手を挙げる。
「話すことはない、と言ったはずですが」
 ナムはその男に目をあわせたままに酷薄した。
 如月は静かに目を閉じていた。まるで息一つしていない様子で、ナムの声など耳に入っていないかのようだ。
 そのままゆっくりと立ち上がる。
「今日は済まない」
 如月の口から謝るセリフが出た。
 それだけで嫌な予感がした。
 ナムに向かって頭を下げる。
 嫌な予感が全開だった。
「彼の聞きたいことを、喋って頂けないだろうか」
 シュトレイマンがくつくつと笑う。
 端正な顔立ちを歪めるその笑い方は、この男の唯一の欠点に思えた。
「どうしたんです?」
 ナムは不審がって聞いた。
 何かしら、二人の間で密談が交わされたことは一目瞭然だ。
 あの如月が?
 まさかと思った。
 地雷を踏んだへまをしたのか?
「僕にもさぐり専門の人間がいてね。ちょっとした秘密を条件に、君との会席を望んだんだ」
 ナムはシュトレイマンを睨んだ。
「それは脅迫というんだ。あんたの司法圏外で余計なことをすればこっちの牢獄に突っ込むぞ」
「そんなことをすると困るのは君たちのほうじゃないのか」
「その通りだ、六道君」
 如月の声は落ち着いていた。

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