「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

「そうだな」
 真面目に答えようとして、その質問が不自然なことに気付く。
「寝たら見るだろ?」
「見たことないです」
 はっきりと否定されて、ナムは穂ノ原の顔を見返した。
「からかってるか?」
「からかってないです。ホノはいつも真剣です」
「……もう少し真剣になった方がいい気がするが」
 真剣なのはわかっているが、ならばどうして不注意ばかりを繰り返すのか。
 割れた食器代は特7課の財政をすでに5%ほど圧迫している。
「寝たら見るんだよ。人間の脳はそうなってる」
「ホノは栄養補給中に視覚が切り離されます。なので、課長が言うような映像を見ることは出来ないと思います」
「寝てりゃ目はあいてないから、視覚は必要ない。脳みその中で見てるんだろ。頭の中身がハードディスクレコーダーになってるんだ」
「それがないと再生できないですか?」
「例えだ例え。本当にはいっているわけないだろ。お前にわかりやすく説明したつもりだったが」
「よくわかりません」
「……はっきり言うね」
 穂ノ原に向け、なかば逆ギレじみた目を向ける。
「一つや二つくらい記憶に残ってないか? 昔幸福だった頃の両親の思い出とか、誕生日に食べた特大ケーキの甘さとか」
 ナムの中では、穂ノ原は不幸の星の下の少女であった。
 ふるふると首を振る穂ノ原。
 唖然とするナム。
 そして思い出した。
「……そういえば、ぐっすり眠ると、夢は記憶に残らず終わるらしいな」
「そうなんですか?」
 そうか。
 きっと叔母に散々いじめ抜かれて、クタクタになった体で布団に潜り込むため、夢を見る余裕すらないのだ。
「……穂ノ原、今日は駄目だが、いつか鰻をごちそうしてやる」
「はい! 楽しみにしてます!」
 性格は少々おかしいが、根は悪い子じゃない。
 ナムはいつか財布と相談することに決めた。
「とりあえず、今日帰ってオフィスに買い溜めてあるカップラーメンをごちそうしてやろう」
「はい! シーフードがいいです!」
「ふっ、そのくらい譲ってやるさ」
 優しい目をした彼の懐から、

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