「-HOUND DOG- #echoes.」
第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る
「なにが大変なのかを、40字以内で簡潔にまとめて俺に報告しろ」 我知らず、口ぶりが特7課の平常業務と同じ口調になる。 「本当に大変でしたの! 私たち、もう少しで事故に巻き込まれるところでした」 「そうか。でも、見る限りぴんぴんしてるぞ」 「ホノちゃんが助けてくれましたの」 「ほう」 驚いた。 自分のクビをつないでくれた新米社員に声をかける。 「課長! おはようございます!」 なにか喋っていた権介を無視してこちらへ歩いてくる。 「ああっ!? ホノちゃんっ――」 ナムと目が合う。 「ぐふぅ!」 見てはならない場面を見られたとでもいいたげな形相を浮かべ、即座に顔を背ける今年で生誕36周年を迎える中年オヤジ。 「まずは報告を聞こう」 「えっとぉ、今度の日曜日に動物園に二人で行かないか、と誘われました」 健やかな笑顔でプライベートの誘いを公然と暴露する穂ノ原。 そういったことを聞いたつもりじゃなかったが、 「……ほう」 とりあえず、遠くのほうでぷるぷる震えている権介に目を細める。 「念のため、部下がとても恐い顔の因縁デカの毒牙にかかるのを防ぐことを目的に、誘った本人と直接お話がしたいが、もしよかったら呼んでくれないか。その不埒な公僕を」 「はい。乙女塚さーん!」 呼ばれた権介が「ぶふぅ!!」と汚らしくつばを飛ばしてどっと滝の汗を流し始める。奴がガマガエルなら、かなり大量の傷薬の原料がとれただろうに。 「おとめさーん! 乙女塚けいぶー! うちの課長が呼んでますけどー!」 悪意がないとはいえ、これ以上の羞恥プレイはナムにも酷と思えた。奴の同僚らしい刑事や女性警官が、くすくす笑いながらと遠巻きに見守っている。 間違いなく、純情一直線の万年 くっくっく。 いかん。思わず笑いが。 こちらを向いた顔は、般若だった。 「ここですよー! よかったー! やっと気づいてくれたんですかー!」 ずしん、ずしんと警察署の床を響かせて、般若が悪意とともにやってくる。 呼びかける穂ノ原を通り過ぎてナムの前まで来ると、ガツン! と頭突き同然に額をぶつけてきた。 至近距離でにらみ合う二人。 「……お呼びになりましたか、特甲課の”クレイジー・モンキー”」 「それをいうなら”クレイジー・マン”だ。ついでにいっておいてやると、その呼び方で俺を呼ぶな”権介”」 |