「-HOUND DOG- #echoes.」
第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る
ぎゃりぎゃりと音がして、すぐ横の細い路地を何か巨大なものが疾走してきた。 四輪駆動――ただし、4本の細い足に車輪がついた四輪駆動だ。狭い路地で体を垂直の伸ばし、左右の壁に激しくこすり付けるようにして多足歩行の蜘蛛型Dzoidが向かってくる。生ごみで一杯になっていたポリバケツが轢かれ、歩いていた猫が全身の毛を逆立てて下水の溝に身を隠す。止めてあった自転車が跳ね飛ばされて宙を舞った。 暴走Dzoidだ。 「うわぁ!!!」 間一髪、路地を突き抜けてきた巨体から身をかわす。 歩いていた通行人の悲鳴が重なる。 蜘蛛型Dzoidは車道へ出る前に急停止し、頭頂部にあるメインモニタで周囲を確認。3対の足のうち、一対には無理やり床から引きはがされた 歩道に障害物が少ないと踏んだ。 再び四輪が旋回し、歩道を行く人々の中を突っ切ってくる。 「ひええ!!」 綺麗な包装紙がことごとく潰され、砕け、千切れる。ごろごろ転がるガリ。その横を巨大な影がかすめていく。 蒼い表情で顔を上げた先に、固まる主の姿があった。 「お嬢様ぁ!!!」 叫んで立ち上がるが、到底追いつける距離ではなかった。 追いついたとしても、どうしようもなかったろう。 それでも走ったのは、彼は長い間仕えていた主人のためであった。 彼は執事であり、幼い頃から傍に仕えていた。 ここまで横暴に育ったのも、彼の教育方針に一端の責任はあったには違いない。彼は主人のことを我が子の様に思っていた。扱い的には自分のほうが奴隷だが。 それでもよいと、彼は思っていた。 主人の幸せこそ自らの喜び。 ムチの一撃一撃に愛を感じる。 言葉に表すことのできない照れ屋なのだと思っていた。 いや、正確には思い込むことにした。 彼は執事であった。 だから走った。 しかし、すでに40を過ぎた体はすぐに肉離れを起こした。 へなへなとくず折れる健康不全の体。 「おおおじょおぉぉさまぁぁああぁぁぁあぁ!!」 最後の手段に、彼は祈った。 小柄な少女の体に迫り来る巨体。 「――きゃああああああああああああああああああ!!」 叫ぶ少女の前に、影が割り込んだ。 |