「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

 急いで荷物の収集にかかるガリ。
 夜の国道は光の波であふれ、そのほとんどが停止した車両の光だった。車とDzoidが行儀よく一列に並び、信号待ちをしている。
 明治の頃より時代を経て整備されてきた交通網は、たとえ新しい技術が台頭してきたからといってそうそうなくなるものではない。逆に道路公団からDzoidへの車両規制として、公共の舗装道路を走るときには車輪にて運行することが義務付けられている。Dzoidの重量は平均して3トン。二足歩行で歩き続けたとすれば、途端に舗装道路はへこみだらけの悪路と成り果てる。
 そのため、初期のもの以外のDzoidであれば、補助車輪かもしくは空圧によるホバークラフト機能の備え付けが一般化されている。浮かび上がることで道路への負担を減らすのだ。このオプションはそれなりの高額だが、量販店も売らなければならないために身銭を切って取り付けをサービスするところも少なくはない。Dzoidは運用で結構なメンテナンス費用がかかる。そちらで元金を踏んだくろうという魂胆である。
 ただし、そう高くは飛べない。せいぜいが道路の数センチ程度である。これ以上高みへ上りたければ、別売りの高圧噴射器具――つまりバーニアの購入を薦めてくる。ただし、これは公共の場所での使用はNG。見つかり次第に罰金もしくは6ヶ月以内の禁固を食らう。
 家庭の庭なら制空権の及ぶ限りいくら飛んでもノー・プロブレムである。落ちてくるときには気をつけなければDzの重みで家がつぶれるくらいの被害で済む。ただし着地地点の座標の確認を怠ると、同じように訴えられる。
 作業に特化したDzoid以外は、複数人が乗れるように設計されている。これは幅が広いものであれば、大型バスもかくやという多人数乗車用のものまである。操縦席はかなりゆとりの空間をとっており、通常の四輪車両同等にナビシステムやMD、はては冷蔵庫やちゃぶ台まで備え付けているつわものもいる。そういった人間はどちらかといえば、キャンピングカーを買うべきだ。
 最後に、ホバーがついているからといって道路交通網以外を走ると交通法規違反で捕まる。罪状は暴走行為だ。車だって走れるからといって公園などを爆走する人間が常識人だといえないのと同じ理屈である。
「君」
 見知らぬ男が声をかけてきた。
「こんなところでそんなものを振り回しては、危ないよ」
 至極当然の理屈を口にする。
 夜間巡回中に、道端で騒動をおこしているのを見かねたオマワリさんだった。
「はっ! ナンパ!」
 身構える少女。
「違うと思いますけどー」
「公共の場所でそんな物騒なものを振るってはいけないよ。やるならお家ウチでやりなさい」
 一部始終を見ていたゆえに、弱腰の態度である。
 警察官だって命は惜しい。
 黙って去ることが出来なかったのは、ひとえに職務に誇りを持つゆえであった。
 市民の期待を一身に受け、彼は路上でSMプレイを続ける未成年を補導した。

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