「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

「ズギューンッ!!」
「ずぎゅ――?」
 今、擬音が言葉で聞こえた気がしたが。
 銃弾でも受けたかのように、デブが胸を押さえて椅子からがたりと転がり落ちる。
 まるで豚のようだ。
「凄いです! これはどちらの漫画家の作品なのですか!」
「どきゅーん!」
 気持ち悪い動きで豚が床の上でもだえている。
「本郷、おまえ、こういうのが好きなのか?」
「はい! 大好きです! 駄目でしょうか?」
「……いや、会社は個人の趣味まで言及しない」
 ナムはできるだけ抑えた声で答えた。
「そのラクガキを描いたのは――」
「ラクガキじゃないです! イラストです!」
「……。とりあえずそれを描いたデブは、そこに転がっているデブだ」
 ナムは頭を押さえ、床の上でハァハァと赤い顔をしてもだえているデブをさした。
「この人ですか!」
「ナム」
 ドクが声をかける。
「なんだ?」
「今のうちに捕まえておいたほうが良くないか? このデブ、いずれ犯罪者として再会する予感が満載なのだが」
「同感だ。しかし事後でないと検挙はできない。刑法は基本実行犯が主対象だからな」
 物騒なことを言い合う二人を他所よそに、転がるデブの前にちょこんと座った本郷は、熱心な様子でイラストについての説明を求める。
「これ、このキャラ、どんな職業の設定ですか? きっと刑事ですよね! 女性捜査官! 拳銃をスリットから取り出してフリーズ! とかっ」
「ぱ、パンチら……ハァハァ」
 ナムとドクは頷いた。
「現行犯逮捕だ」
 デブの太い腕に余っていた手錠を差し込む。
 正気に返るデブ。
「な、何するでヤンス!」
「言い訳は豚箱の中で聞こう」
 冷たい声で連行しようとすると、本郷がそれを止めた。
「待ってください! まだこのキャラクタの設定を聞いていないです!」
「苦節25年……ようやくあちきをわかってくれる女性にめぐり合えたというのに……シーユーアゲイン! 僕のマイガール! あちきのためにたまの涙を流しておくれ!」
「牢屋の中でも面会所で質問くらいできるだろう」
「あ、そうでした!」
 人知れずショックを受けるアニメーター脂肪のデブ。

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