「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

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「嫌われていますね」
 後ろから掛けられた声に、微笑を歪ませる。
「公安が好かれる国は腐敗している」
「敵の敵は味方だと思いますが」
「自覚していないからな」
 内ポケットからシガレットケースを取り出し、煙草を一本取り出すと口につける。
「所内は禁煙です」
「外だ」
「私有地です」
 肩をすくめ、それでも火の鳥ファイア・バードが彫刻されたジッポを持ち出して火をつける。
 赤いともし火から煙が上がる。
「僕のことはシュトレイマンと呼ぶように」
「はい。CEO」
「ノーだ。シュトレイマン」
 現れた女性に注意し、ついてくるように指示する。
「何か掴んだか?」
「はい。いくつか」
「OK。場所を移そう」
 肩を並べて歩く。
 美男美女の取り合わせは嫌が応にも人目を引く。どちらも目立たぬ色のスーツを着ているのに、モデル並のスタイルと、夜の月に映えるような顔が道行くものを振り向かせずにおかない。男性は道行く女の視線を、女性はすれ違う男の視線を、連れ合いから奪ってはそ知らぬ顔で通り過ぎていく。
イエローモンキーは嫌だね。いまだ外国人が珍しいとみえる」
 皮肉に口元をゆがめる様が、彼には最も似合う。
「煙草をすっておられることに注意が向けられているのかと」
「ふん。狭量な国だ」
 足元に放り投げ、踏み潰す。
 彼らは人気のない公園にたどり着くと、空いていたベンチに腰をかけた。
 出来すぎたカップルに見える。
 女性は脇に抱えていたブックファイルを差し出す。
 それを開き、
紙資料ペーパーベース? なんてアナクロな」シュトレイマンが文句を口にだす。
「文字はいまだ廃れてはいません。文明の利器に頼りすぎるのは、CEOの悪いところです」
「厳しいね」
 ふと気づいて、
「シュトレイマンだ」と注意する。
「申し訳ございません。シュトレイマン」

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