「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

「BTをこの子以外に変えてください」
 静かな声で、自分のほうを向く柏原美奈。
 ふと気づいた。
 柏原、こんな無感情な性格だったろうか。
「……暫くチームはこのままで行く。成果を出せなければ、柏原、お前には降りてもらう」
 顔がゆがんだ。
「そんなっ」
「昨日、お前とPTについて話した条件を忘れたのか? 『ナイト』に搭乗可能な人間は他にもいるんだぞ」
「でも、この子が……!!」
「この子じゃない。本郷だ。お前の現在いまのパートナーだ」
 ぎゅっ、と拳を握り締め、俯く。
 酷なことを言っているわけではない。責めているわけでもない。事実を伝えているだけなのだ。
 それすら拒否しているのは、ただの意地だ。
 柏原がきっ、と顔を上げた。
 その目がにらんでいたのは、ナムではなく、隣にいるドクだった。
「失礼します」
 おざなりに一礼すると、身を翻して去っていく。
 息をつくと、横にいるドクを見た。
「恨まれているな」
「恨まれるようなことをしたからな」
 寒そうにドクは白衣の襟元を寄せた。
 自業自得だが、いつまでも針のムシロのままでいられても具合が悪い。
 ぽつねんと置いてかれた本郷に声をかけ、一緒にオフィスへと戻る。
「あの人は、わたしたちの仕事がどんなことがわかってるんでしょうか」
 と言うような愚痴を散々聞かされる羽目になる。
 出社してきた夜間勤務の者がちらほらと通りしなに声を掛けてくる。
「おはようございます」
 昼も夜もない職場はいつだって朝の挨拶だ。
 本郷の愚痴を適当に受け流し、新宿西口コノハノミヨビルの玄関までくると、一番出会いたくない顔と出合った。
「Nice to meet you!」
 FBIの捜査官は親しげに声かけてくる。
「お仕事が終わったようなので続きを――」
 近づいてくる紺のスーツをナムは立ち止まらず迎えた。
 差し出された手をスルーし、そのまま玄関の自動ドアをくぐる。
 ガラスのドアが閉まる。
 追いかけてはこないようだ。
「良いのか?」
 ドクが声をかけてくる
「何かあったか」
 気づかないふりをする。
「か、カッコイイ方です! 課長、知り合いなら是非是非紹介してほしいです!」
 乙女の目をした本郷がぎゅうぎゅうと袖を引っ張る。
「夢でも見たんだろう」
 エレベーターに乗り込み、正面を向くと、あの男がにこりと微笑みを向けた。
 嫌みな奴だ。
 ナムは感情のベクトルをさらに嫌いな方向へ下げた。

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