「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

 実は主体となるのは操縦者よりもバックアップについた要員で、そのメンバーが他の機体と作戦の指示、状況、次へ行う連携動作の指示を通して犯罪者の捕獲を行う。
 相性が悪いのは性格もあるだろうが、何より、無くした相方にまだ未練があることのほうが不味いのかも知れない。
 早まった、とナムは少し後悔した。
 女の涙に押し切られた自分の弱さを恨めしく思う。
「見ろ」
 倉庫の出口でドクが立ち止まり、前方注意と目で知らせる。
「はぁ」管理職ゆえのため息をつく。
「なんで言うこと聞いてくれないのですか!!」
 怒っているのは、元警官という触れ込みの本郷だ。本郷小夜。前職は交通課の婦人警官。どうも容姿が成長期をすぎていないらしく、交通課で違反車両に注意してもからかわれて逃げられること数十回。不憫に思った彼女の上司が面会に来て、こちらにどうかと置いていかれた経緯を持つかわいそうな娘。
 20は過ぎているはずだ。
「アナタの判断が悪いんじゃない」
 冷たい目で柏原がヘッドギアを外す。昨日まで長かった髪は、PTパイロットに転向が決めた夜に、バッサリ切ってボーイッシュな髪型をしている。覚悟の表れだ、と彼女は語った。
「あのときはあれが最善。あたしは元BTバックアップなの」
「柏原さんは今、PTなんです! 指示に従うのが筋です!」
「あの距離で飛び道具なんてあたるはずないでしょ。新参者のくせに」
「! たった3ヶ月しか違わないです! 黒城主任のところでは実績もあります!」
「アナタなんてマスコットみたいなものじゃない」
「なんで藤谷はこんな日に休むか」
 額を抑えるナムに、「止めなくていいのか?」とドクが目で問いかける。
「わかってるさ。仕事だもんな」
 二人に近づき、
「もうそのくらいにしとけ」声をかけた。
「課長」
 ヘッドギアと衝撃吸収ベストを脱いだ柏原がまず気づいたようだ。
「ご苦労様であります!」
 びしっ、と敬礼してきた本郷に苦笑する。婦警時代のクセがいつまでも抜けない。
「ここは軍隊じゃないんだ。そんなものはいらん」
「わたしは警察官です!」
「……穂ノ原といい勝負だ」
 ふっ、と遠くの目をして厄介者ばかりを押し付けられる職場を悔やむ。
「柏原もPTの実践は今日が初めてなんだ。新しいチームを組んだのならお互い仲良くしてもらいたいんだが」
「無理です」
「! わたっ、わたしだって無理ですから!」
「柏原、お前先輩なら、先だって適度な協調性を見せるべきじゃないのか?」

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