「-HOUND DOG- #echoes.」
第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る
/ 8 / 特7課の倉庫にミニパトを停車させ、これから溜っている書類仕事だ。ほとんどが苦情やクレームの苦情書類で、重い気持ちに包まれる。文句なら犯罪者に言うべきだろう。俺たちは必要最低限の器物破損しかやったことはない。 はずだ。 だいたい街中で暴れ回る奴はどうかしている。やれ世間が悪いだの、学歴社会に人生を狂わされただの、リストラされた腹いせだの、暴れ回る前にまだ他にすべきことがあるだろう。せめて生身で暴れてくれればいいものの、下手に人型に作ったせいか、Dzを使って腹いせを実行する巨人思考に憑かれた暴走犯が増えている。 車なら無人ATMに突っ込んだあと機械の持ち運びに苦労するが、Dzなら巨大な手で引っこ抜いてもち去ることも可能だ。あの巨体で追走劇をする羽目になってみろ。街中でどんな被害が出るか分かったものじゃない。 「ナム」 「ああ、今行く」 ヘッドライトを消す。 鍵を掛け、小さな背丈のあとに続く。ドクはいつだって丈の合わない白衣をひきずって歩くので、薄闇にかかわらず位置が特定しやすい。 キーをくるくる指の先で回転させ、コートのポケットへジャックポット。 「整備員に連絡をつけた。11号機の破損チェックをしてくれるそうだ」 「そうか」 11号機は家屋一つを潰した反動で、右腕の上がり具合に支障が出ていた。 やはりまだ、慣れていないせいだろう。 「柏原、どうだ?」 歩幅が狭いおかげですぐに追いつき、横に並ぶ。 「ふむ。駄目だな」 容赦がない。 「あんな無鉄砲な突っ込みをして、機体が壊れなかっただけでもめっけものだ」 「初仕事はあんなものだろ?」 「無理に取っ組み合いなどする必要もなかった。なんのために飛び道具がある」 「リボルバーカノンはそう滅多に撃つ代物じゃない」 「 「 「相性の問題だ。馬があわんらしい」 「そいつは問題だな」 操縦者とバックアップの二人で一つの機体を操る『ナイト』は、その特性上息のあったコンビネーション・プレイが要求される。操縦者だけで操れる機体ではなく、バックアップからの細かな指示と衛星通信を介した遠隔調整によって複雑なシステムを生かし切ることができる。 |