「-HOUND DOG- #echoes.」
第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る
「純ガソリンエンジン」 弾を取り落としそうになる。 「ガソリン!? 「ドク嘘つかない」 「なぜ片言」 「旧式だからな。見栄で購入した資産家の持ち物だろう」 石油資源はもはや燃料以上の価値をもつ先物取引専用の材料となっている。それを燃料として消費する機体を所有し、いまだメンテナンスを怠っていないのなら、かなりの金持ちだろう。 「下手をすると損害賠償で訴えられかねん」 「おいおい」 冗談でないところが民間警察のつらいところだ。 「――燃料タンクにぶち込むのはナシだ」 「わかってる。爆発製の核もち機種なら足を狙うさ」 「それでも賠償は確実だろう」 「金の心配なら部長にしてもらう。俺たちは、被害を押さえることが何より先決だ」 「ふむ」 ミニパトに備え付けられたカーナビのディスプレイに3Dグラフィックの『カーミラ』模型が表示される。回線をのっとってPCとのミラー表示に切り替えたのだろう。 腰の辺りにポシェットのように並ぶ三つの円筒型燃料タンクが のぞき込んで説明を聞く。 「069年発売だ。この頃はまだ、石油資源の抜本的な解決などどこも考えていなかったからな。やっていることは少なく使う――地球規模の省エネルギー節約くらいだ。この一年ほど前には、新たな油田が見つかっていて、市場不安も一時払拭されている」 前を見ると、『カーミラ』が追いついてきた『ナイト』ととっくみあい喧嘩を始めていた。 塀を壊して広い邸宅の庭に入り込み、生えていた立派な松が根本から抜かれて振り回されている。 目を戻すと、モニタには新たに胸部コクピットが表示されていた。安全対策の 「コクピットの下に燃料タンクがあり、起爆すると操縦している人間まで巻き込む」 「誰だよ、こんな設計したの」 「ミクロナイツ・テクノロジー。外資系だ。制作者は――」 「真面目に答えんでいい」 銃を片手に構える。 「ドク、投降の呼び掛けやってくれ」 「すでに行われたあとだと思うが」 「ああ、まー、そうか。あれだけ派手にやってりゃ」 民家に突っ込む『ナイト』。長い年月を耐え抜いてきたわびさびを体現した日本家屋は、人型兵器のおかげで見るも無惨に半壊した。 |