「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

 まだ子供だ。
 年端もいかない。
 手に紙風船をもっている。
 全員が息を呑む。
 肩を揺さぶられ、落としていた目を前に向けた。
 ぱす、と地に落ち、頼りなくへこむ紙風船。
「なんてものをみせやがる」
 目を見開いたまま微動だにしない少女。
 絶望した瞳が我が子をみて、さらに絶望に沈む。
 汚されたこめかみに当てられるベレッタの銃口。
 弾ける音。
 ごとりと母親の首が力を失った。
 少女が腕を振り切り取りすがる。
 その様子をからかい混じりに嘲る嗤い声。
 何度揺さぶっても、母親は反応を示さない。
 無数の手が次の獲物に伸びる。
 悲鳴を上げる。
 逃げだそうともがく手足が、男たちの隙間から垣間見える。
 ふつ、と頭の理性が切れた。
 飛び出そうと足のバネが弾ける寸前、銃声が響く。
 男たちの一人が頭を破裂させて宙を飛び、転がった。
 横を向くと、瓦礫を台座に狙撃銃――RLリニアレールガン−HS065の銃口から電荷の硝煙が吹いている。
「我慢が出来ませんでした」
 感情を無くした声で、感情そのものを言い訳を口にする。
 何者かに狙撃を受けたことで、奴らが慌てふためく。
 血相を変え、手近な物陰に身を寄せはじめた。
 統率がとれていない。てんでばらばらだ。
「馬鹿が」
 隊長が目を閉じ、部下の失態をののしる。
 少女が呆然としていた。
「確保します」
 飛び出そうとしたところを、腕を掴まれる。
「これから言うことを復唱しろ」
「何を――」
 暢気な。
 言葉に出そうとして、にじみ出る迫力に気圧されて言葉を呑まざるを得なかった。
「我らは索敵途中に敵の残存部隊と接触。敵は最後まで抵抗の意志を示し、やむなく殲滅した」
 息を呑む。
「殲滅、ですか」

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