「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

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 戦闘は一週間程度の小競り合いで済んだ。
 相手もまだ、主力をぶつけようと考えてはいなかったのだろう。
 リッグは本国へ輸送され、右腕を義肢に変えるそうだ。ついでに入手した情報を輸送媒体に保存し、軍部へ届ける役目も負っている。
 どちらかといえば、後者の役割がつよい。
 負傷兵として隊を離れることを悔やんでいたが、隊長の命令で帰国を受諾した。義肢に変えた後は暫く軍務につくことは出来ない。半年ほど、戻って来ることはないだろう。
――その間に、終わっていればいいのだが。
 乾燥した風が砂埃を巻き上げ視界を奪う。
 元来た道を進みながら、隊長が自分の言葉に同意してくれた事に内心で驚いていた。
 かつてあった建物が、残骸となって転がっている。
 灰色の土から懸命に芽を出して小さな花を咲かせていた大地がえぐられている。
 何より、ほんの一週間前まで生きていた者の骸が転がっている。
 それは敵兵士であり、味方の兵士であり、巻き込まれた現地住人の骸でもある。
 乾いた血がこびりついていた。
 硝煙の匂いに数%混じる鼻をつく匂い。
 血の匂いではない。
 赤道近く。照りつける太陽は片時も空から引かず、高い気温が続いた。高温の場所では遺体の腐敗は著しく進み、たまったガスで内側から破裂し、黒ずんだ体から腐敗臭をまき散らし始める。
 その匂い。
 蝿がたかり、ウジがわく。餌を与えられなくなった元飼い犬が空腹に耐えかね、腐った肉片に食らいつき、余計にやせ細っていく。
 そんな光景。
 何も感じない。
 心を感情を意識の外側に占めだし、灰色の風景のように事実だけを確認して進む。
 初めて戦争にかり出された人間は、よく正気を失うという。
 当然だな、と思う。
 これは、ない。
 ベッドの上で静かに永眠し、厳かに運ばれて桐の箱に詰められ、参列者からたくさんの花を送られて火に包まれて朽ちる。
 小さな骨壺に灰とともに納められ、閑静な集団墓地で夫や両親とともに眠りにつく。
 葬式というのは、なんて豪勢な死に方なのだろう。
 戦争を忌み嫌う、自分の生まれ故郷に心底同意する。
 これは、ない。
「珍しい奴だな」
 フレドが横から話しかけてきて、そちらをむく。
「てっきりお前ら――まぁ、初物はたいがいそうだが。こういう光景を前にして、吐いたり頭がおかしくならないのか?」

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