「-HOUND DOG- #echoes.」
第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る
「俺たちは米国陸軍だ。護るものをはき違えるな」 「何とかなりませんか」 隊長はしわの刻まれた目元の奥から、強い眼光で若い部下を睨んだ。 「大局を見誤るな。そんなことでは、戦禍の命一つ、満足に奪えはせんぞ」 「この村には、子供だっています。女性も、老人も、せめて弱いものだけでも助けることは出来ないでしょうか」 「甘ったれるな」 反論を許さない口調。 「部隊は消耗し、誰かを助けられるほどの戦力はない。彼らがこの地を捨てれば済むことだ」 「生まれた場所を捨てるなど、そう簡単にできるのでしょうか」 「それは、彼らが決めることだ」 隊長もわかっているのだろう。 わかって言っている。 「――それでいいのですか」 自分なりの、精一杯の抵抗の言葉だった。 このまま彼らを――あの少女を、母親を、見捨てていくことに、負い目が生まれていた。 「…………」 「隊長!」 見張りに出ていたフレドが厳しい表情で駆けてきた。 「東北東1.5kmの地点に”レッドバロン”が待機しているそうです。”シルバーフォクス”は現地時間16:00までに合流するよう指示が出ました」 「そうか」 部隊名につけられた通称を暗唱し、「準備にかかります」と去っていくフレド。30分とかからず、7506小隊はこの村から引き上げることが決定された。 「隊長」 「 反射的に、真っ直ぐに直立する。 「それ以外の言葉を聞く耳持たん」 言い捨てて、隊長は背中を向けた。 気ヲ付ケの態勢で硬直したまま、空を見上げる。 なんてちっぽけなんだ。 今更の自覚に、悔しさで目元が滲んだ。 |