「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

 そのうちの一つ、強硬に反対姿勢をとるイランに対して米国は武力介入をちらつかせた脅迫勧告を行う。それがさらに溝を深めた。和解は白紙撤回され、イランはロシアと中国の他、周辺諸国の援助を受けて、資源戦争の幕が切って落とされた。
 第75レンジャー連隊は戦争突入直後の斥候部隊として軍事力調査の任を与えられ、敵国内へ潜入した。作戦は小隊3の中隊で派遣され、06小隊はその1小隊に含まれた。作戦は成功したものの、引き際に敵中隊と接触。部隊の半分を失う手痛い反撃を受け、遁走を余儀なくされた。
 西暦2079年9月。
 負傷兵ばかり、互いに肩を貸し合って強行軍で歩き続けていた。途中、何人かが倒れ、そのうち何人かを見捨てた。部隊は消耗の極致にあった。運の良いことに、近くにあった村落へと辿り着くことが出来た。
 快く現地住人に迎えられ、しばらく逗留することが決まった。大きな集会所らしき建物に思い思いに腰を落ち着け、息をつく。
 比較的軽傷だった自分が呼ばれ、隊長から幾ばくかの金を与えられ、遣いを頼まれた。
 古びた屋根の天幕に、この村の長と名乗る老人がいた。
「食料と水、それと女を用意してくれないか?」
 命令か、と問われ、首を振る。
 彼らからすれば、自分たちは武力制圧を目的とした敵国の侵略者であり、決してよい印象は持たれていない事は分かっていた。話しているうち、逗留に快く応じたのも、反抗して村が荒らされることを畏れたためと気づく。
「受け入れてくれたあなた方に、俺たちは危害を加えない」
 それは、絶対の命令だった。
 渋る村長に向け、必死に頼み込む。
 食料と水は用意しよう。だが、女を用意することは出来ない。
 戦争を知らない者なら、それで引き下がったかも知れない。いや――「人は理性だけで生きている」などと豪語する自称フェミニストなら、喜んで頷いただろう。そう言った連中は、本当のありのままを知らなさすぎる。己自信すら分かっていないロマンチストだ。
 極限状態の中でも、人の性欲は衰えない。むしろさらに野生を剥き出しにして暴走する。戦時下にしろ、災害下にしろ、犯罪で最も多いものに強姦犯罪があげられるよく知られた事実だ。平時下にない人間の行動を、平時下では統計できない。そして、発覚を恐れて隠蔽処理に奔り、さらに悲劇が重なるのだ。
 戦時下では理性など信用できない。と教えられた。
 興味を示したFM社の腕時計を加えることで、渋々寡婦3人を寄越すという言葉を手に入れた。隊長に伝えると、礼の言葉が返ってきた。
「いえ、部隊のためですから」
 隊長が唇をつり上げる。
「お前も大人になったな」
「何がですか?」
「いや、よくやってくれた。休むといい」
 村は自分たちを受け入れてくれはしたが、政府軍に通報される危険性は捨てきれなかった。24時間交代で見張りを立て、内と外とに不穏な動きがないか目を光らせていた。

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