「-HOUND DOG- #echoes.」
第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る
/ 6 / ミニパトの車内。 ハンドルにもたれ、ナムはドクとともに待機していた。 連れてきた十数名の部下は、暴れ回る汎用Dzoidを相手に追い込みを開始している。この場所へ辿り着くまで、彼らは暇だった。 警察庁から免許を受けているのはナム一人だ。特7課で犯罪者逮捕の名目で強制連行できる権限は彼にしかない。一般社員は善意の第三者――つまりは一般人と同じ地位であり、必然的に、最後の引導は彼が渡すことになる。 業務上、主任以上の役職となれば刑事免許の取得が許可される。チームを組んで犯罪者の取り締まりに当たる現場指揮官の主任なら、刑事免許があれば独断逮捕が可能だ。主任人員は現在三名。いずれも優れた見識と実力を持つ社員で、彼らなら間違いなく刑事の責務を果たせるだろう。 ところが、誰一人として刑事免許を取ろうとしやしない。理由は明白。刑事免許の取得には試験がいる。司法試験だ。ただでさえ激務の上に、そんなものにまで時間を割くのはありえない。というのが主任トリオの弁である。さらには公職免許よりも、サプライズ昇級試験をパスするほうが確実に給料がアップするので、時間を掛けるならそちらにまわす、ということも暗黙の見解となっている。 かくて、いまだ特7課には、刑事の肩書きをもつ人間は一人しかいない。いや、”警部補”であるナム一人。 ちなみにドクは主任でもそれ以下でもなく、スペシャルアドバイザー。臨時顧問の役職で、特7課のサポートを仕事としている。 今をチャンスとばかりに携帯PCを相手に電子商取引に走るスペシャルアドバイザー。 デイ・トレーダーという肩書きに変えるべきだという意見も少なくはない。 叱ることもなく、ぼうと前の広がる景色を見る。 さんさんと太陽の照りつける大通りには人一人いない。交通課に協力してもらい、被害の出そうな範囲は通行止めにしている。部下は旨くやってくれるだろう、いつも通りにのんびりやればいい。 遠くに居並ぶビル群。近くに広がる庭付き一戸建て。目黒は今日も平和だ。遠くから聞こえる断続的な騒音以外は。 青い空を見上げる。白い雲が流れている。空というものは、どこからみても同じ色をしている。果ての果てまで広げられた大気の そうだ。 どこからみても、この空の色は変わらない。 枯渇した石油資源は稀有な資産となり、1滴が宝石のようだと WTOは再三にわたり勧告を出したが、いくつかの国とは最後まで交渉は平行線を辿り、話し合いは遅々として進まなくなる。 |