「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

「なら隊長のフルネームくらい調べることも出来たはずだ」
「軍部の人間曰く、クビになった人間は、軍部情報よりデリートされるそうです」
「クビ? 隊長が? 解雇されたのか!?」
 ナムは驚き、身を前に寄せた。
「正規の退役ではなかったようですね。その話が真実であるなら」
「馬鹿な。隊長が、軍人であることを誇りにしていたあの人が、なぜ懲戒処分など受ける!」
「私に尋ねられても知りませんよ」
 気色ばむナムと正反対に、落ち着いた調子で缶コーヒーを傾けるシュトレイマン。
「君がいったその方々も、軍務履歴に無かったのなら、テロリストの側に回ったのかも知れませんねえ」
「ふざけるな!」
 考えるより行動のほうが早かった。
 シュトレイマンの胸もとを掴み、引きずり起こす。
「カムイは先日起きた”アガメムノン”強奪事件にも深く関わっている可能性がある。お互い協力態勢をとることは両者にとって有益な状況をもたらすとは思いませんか?」
「隊長が国を裏切る。貴様等、一体あの人に何をしたんだ!」
「何度も言わせないで欲しい。私はその件に関与していない」
「ふざけるなっ!」
「おっと」
 と言って、手に持った缶コーヒーを持ち直すシュトレイマン。
「コーヒーがこぼれる」
「何がコーヒーだ!」
「そう熱くならず。だから我々も大変なんです。自国で有益な情報が得られないため、わざわざ退役した貴方を捜して、こんな辺境の島国にまで出張してきたんですから」
「帰れ!」
 怒鳴りつけると同時に、ガチャリと扉が開いて如月が入ってきた。
 自分の部下がFBI捜査官の胸もとを掴んでいるのを見ると、まず眼鏡を押し込み、冷静に声を掛ける。
「その手を離すべきだ。六道君」
 怒りに満ちた手がぶるぶると震えている。
 再度如月が声を掛けると、シュトレイマンを睨み付けたまま、ゆっくりと手を剥がす。
「とんだ暴力警官ですね」
 乱れたスーツの襟元を直しつつ、薄笑いを浮かべたシュトレイマンが如月に聞こえるように呟く。
「部下が失礼致しました」
 丁寧に、いささか慇懃無礼なほどに腰を曲げ、如月が頭を下げる。
「いえ、こちらも少々会話を急ぎすぎたのかも知れません」
 ちらりと向けられた視線に、ナムは拳を握りしめて自分を押さえつける。
 シュトレイマンから目を逸らすと、戸口に集まった人垣に気づく。穂ノ原やドクはもちろん、出社してきた特7課のメンバーが興味深そうに如月の後ろからのぞき込んでいる。

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