「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

「カムイ?」
「そうだ。カムイ。調べてみれば、この国の北に位置する小大陸のエゾにそういった言葉があるそうじゃないか。ちなみに君の出身はどこだったか、六道君」
「わかって言っているんだろう」
「ああ、当然だ。君が75部隊にいたこともわかっている」
 ナムは背をソファにもたれた。如月という上司がいないなら、楽な姿勢でもいいだろう。
「FBIは、人の素性も調査するほど暇なのか?」
「犯罪者かそれに近しい人物の身辺調査は行うのは当然だろう」
「特7課は警察の一部だ」
「司法者が犯罪者を兼任していることなんてままあることだ」
 冷たい風が開けっ放しの窓から入り込んできた。4月の風はまだ肌寒いが、それ以上に冷たい空気が部屋を取り巻いていた。
「ああ、そういえばまだ情報がある。この男は、75部隊の小隊長として活動していた事実までは突き止めた」
「それだけ突き止めれば十分じゃないか」
「ところがそうも行かなくてね」
 わざとらしくため息を吐き、シュトレイマンは写真を弾いてナムの前へと寄せた。
「軍部の連中を問い詰めたが、しらぬぞんぜぬの繰り返し。まるで箝口令でも敷かれているかのようだ」
「箝口令だと?」
 不審に問い返すと、シュトレイマンは懐から煙草を取り出しているところだった。
「失礼」
「社内は禁煙だ」
 この階を預かる防災責任者として注意する。
「一本くらいは」
「喫煙室すらここにはない」
「この国は自由主義というものを理解していない」
 呟いて、渋々煙草を引っ込める。
「リッグとフレドがいただろう?」
「誰です?」
「583作戦の生き残りだ。彼らなら、隊長と長い付き合いのはず」
「知りませんねえ」
「異動しているかもしれない」
「軍部のデータベースをアクセスしてみましたが、75部隊所属の経緯をもつ方の名前には心当たりがない」
「レンジャー連隊は特殊任務にあたる。政府の公開情報には乗せていない可能性が高い」
「言ったでしょう? 軍部のデータベースにアクセスしたんです。無かったんですよ」
「……そっちも見た、と」
「ご想像にお任せします。ただし、情報は正確ですよ」
 FBIの男は余裕の笑みを浮かべ、缶コーヒーを口に含む。

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