「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

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「いけない。用事を忘れるところだった」
 思いついたようにシュトレイマンは缶コーヒーをおき、内ポケットから一枚の写真を取り出した。
「これを見ていただきたい」
 たくさんの群集が写っている。かなり高い位置から撮ったものだろう。
 交差点だろうか、老若男女、入り乱れて行きかう人の波の中、ナムの目はある人物に吸い込まれた。
「我が国の高度衛星通信網FISEを用いて入手した唯一の写真です」
 高度衛星通信網とは、国家特務の名のもとに民間、公的機関を問わず地上に設置された無数の監視カメラに人工衛星を介して強制介入し、リアルタイムに映像を入手する公安技術である。半世紀前に制定された愛国者法により、監視媒体を国家治安法の名の下に設置可能となった米国が作り上げた独自のシステムで、国家犯罪者の存在地区の割り出し、籠城犯の監視、犯罪の早期検知など目的は多岐にわたる。
「この写真が、何か?」
「お心当たりはありませんか?」
 押し殺した声で呟く。
「いいえ」
「そうですか」
 目を奪われたまま死線から遮るように手で覆い、ポケットへと戻すと、素知らぬふりで缶コーヒーをすする。
「その男、どうかしましたか?」
「興味があります?」
「そのために来られたんでしょう」
「如月さん、彼を借りても?」
「始業時間までに返して頂ければ」
「結構」
 懐から懐中時計を取り出す。
 いろいろ入ってるもんだ、とナムは内心で皮肉る。
「8:40分。事情聴取開始」
 シュトレイマンの呟きに僅かに眉をひそめる。
「さて。まずは質問だ」
 口調までガラリと変わり、ドスの来た声に鋭い目が加わる。
「君が言った彼、はこいつか」
 再び写真を見せ、指で銀髪の男を叩く。
「この群衆の中から君がさした人物だ。間違いないな」
「ええ」
 今更何を言っているんだ、とナムは思った。
「名前は」
「どういう事ですか?」

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