「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

「Let’s talk in English.(英語でかまいませんよ)」
「Are you certain?(英語が喋れるのですか)」
「Yes,certain.(ええ)」
「有難い」
 男は母国語で話し始める。
「ただ、この場にいる人間は全員英語が達者です。英語での会話に機密性はないとお考えください」
 ナムも同じく英語で返す。
「結構です」
 FBIの男はわずかに唇を曲げて了承する。
「それにしても殺風景な部屋ですね。観葉植物の一つくらい置かないのですか?」
 不意打ちじみた指摘に、一瞬言葉が詰まる。
「――いえ。仕事場なので」
「仕事場にも潤いは必要でしょう。一面が白い壁では無個性に過ぎる」
「外勤が多いので。内装を気にする暇などありません」
 いきなり何を言い出すんだ、といぶかしむ。
「会社のポスター1枚くらいあるでしょう。社内ルール広報であるとか行事広告であるとか」
「それはオフィスに掲示しています。わざわざ私の執務室に張る必要はない」
「なるほど、個性を表示するものが不要。まるで、軍人のような考え方だ」
「――――」
 表情を変えず、内心で驚く。
「――私はしがないサラリーマンですよ」
「サラリーマンは拳銃を片手に犯罪者を取り締まったりしないでしょう」
「それが仕事ですから」
「それにしても、こちらの経費節約はスジがいっていますね。客に飲み物一つださないのですか?」
 言葉を変えて出てくるのは、不平不満ばかり。
 この男、喧嘩でも売りに来たのか?
 自分の事務机に置かれた内線電話を引っつかみ、オフィスのほうに連絡をいれる。
「穂ノ原君。お茶を一つ頼む。昨日の出がらしで・・・・・
 相手がわからないだろうニホンゴで注文する。昨日ついだ残りの茶っ葉ちゃっぱを三角コーナーから拾って煎れてやればいい。
「他にご要望はありませんか、ミスター――」
「シュトレイマンとお呼びください」
「ミスター・シュトレイマン」
「いや、お気になさらず」
 てめぇが注文したんだろうが。
 胸中の感情を押し殺しつつ、愛想笑いを演じる。社会人必須の技術だ。
「あえて言わせていただくと、日本茶よりもコーヒーのほうが好みでしてね」
 そういって、シュトレイマンが見た方向には、ナムがいつも使うドリップ式のコーヒーメーカーが鎮座している。

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