「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

「古ぼけた年代物の店ってだけだ。木造建築なんで、火が付けば一瞬で消し炭だ」
 薄暗い店内に柔らかな朝の日差しが差し込み、よく磨かれたウッドテーブルが輝くように光を放つ。暖色でまとめられた店内は柔らかな灯りに包まれ、そこかしこから豊かな香りが立ちのぼり、まばらな客は今日一日が始まる前のくつろぎの時間を過ごしている。
「それに、店主の方も親切ですわ」
「女に弱いからな」
 女なら何でもいいんじゃないのか? と疑ってしまうが。
 最後のトーストの欠片を押し込み、コーヒーで流し込む。
「ナムさん」
 カウンターの奥からアフロが呼んでいる。
「何です?」
「電話」
 と言って、コードが本体に繋がった固定電話の受話器を差し向ける。
「電話? 誰からです?」
「如月さん」
「何故ここが」
 と呟き、どのみち逃げられないので電話に出る。
「お電話変わりました」
『六道君、今日は早めに出社したまえ』
 単刀直入。早速命令ときた。
 ナムは心の中で嘆息する。
「はい。わかりました」
『用件は君の執務室で話す――ツー…ツー……』
 必要な情報だけ与えて切断。
 ふーっ、とため息を吐き、彼はマスターに「勘定を」と言った。
「毎度」
 一枚の紙切れが突き出される。
「しめて2900円になります」
「……俺がいつ、まとめてはらうと言ったよ」
 紙切れを突き返す。
「別々に請求してくれ」
 財布から500円玉をつまみ、1コインの朝食を支払う。
「ケチだなぁ」無視して席に戻る。
「呼び出しだ。すぐに出る」
 脱いでいたコートを肩にかけ、「代金は各々で払うこと」と釘をさす。
「ゆっくりしていくといい。出社だ、ドク」
「ふむ。まだサラダが残っているが」
「時間切れだ。部長から呼び出しくらった」
 フォークを咥えたまま、名残惜しそうにサラダの小鉢を見るドク。
「私もお供しますわ!」
 立ち上がった少女に、

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