「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

 まだ、呼ぶのに慣れていない。
「はい! なんですの!」
 ドクとの言い争いを途端に切り上げ、こちらを向く少女。
「如月部長から、何か言われたことはないか?」
「なにか? なにをですの?」
 不思議そうな表情で尋ねてくるのをみて、考え過ぎか、と思う。
「いや、なんでもない」
 新聞に目を戻す。
「今日は賑やかだね」
”ホワイトマウンテン”のマスターがAセットを両手にもってテーブルへやってきた。
「五月蠅いだけですよ」
 マスターは手持ちの盆をそれぞれガリとブッチョの前に置くと、小箱をみゅみゅの前に置く。
「どうぞご贔屓ひいきに」
「何ですの?」
賄賂わいろだよ」
 と、マスターは自分から言った。
「捕まえますよ」
 ナムはトーストを囓りながら年配のマスターの軽口に付き合う。
 小箱を開けると、可愛らしくデコレーションされた小さなチョコケーキが現われる。
「わぁ」
「富士さんは菓子作りが趣味の親父でな。感想の一つもやれば飛び上がって喜ぶぞ」
 感心している少女に向けて、ナムが説明する。
 黒ヒゲアフロの”ホワイトマウンテン”のマスターは、期待に満ちた目で感想を待っている。
「おいしいですわ」
 チョコケーキを一口含んで食べた後、満面の笑みで感想を述べる。
「おおっ! そうかい」
(よし、一割引決定だ)
 コーヒーを傾けながら、ナムはほくそ笑む。
 マスターは機嫌の良さそうな顔でカウンターの向こうへ引っ込んでいった。
「ナム、気づいているか?」
 気分を良くしたナムに、ドクがひっそりと耳打ちしてくる。
(マスコミのことだろう?)
 客に紛れて耳を傾けている人間なら、もうとっくに気づいている。
(うむ。下手なことは喋らぬほうがよい)
(わかっている。早めに引き上げた方がいいな)
「ナム様は、この喫茶店によく来られますの?」
「ん? ああ、まぁな」
 ドクと会話を気取られないよう、咄嗟に適当な言葉を返す。
「素敵なお店ですのね。旧世紀のオールドスタイルかしら」

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