「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

「おかげでクビになりかけたでゲス!」
「成果主義では実力の貧しい者が損をするのだ。人をそしる前に実力を身につけるがよい」
「ウキーッ! むかつくガキでヤンス!」
「鼻持ちならないガキでゲス! これから一緒にやっていける自信ナッシング!」
「吾輩は子供ではない!」
 どっちもどっちだ、とナムは心の内に思う。
「吾輩はナムのパートナーだ。仕事以外に時もたいがい、この男の世話をしておる」
 偉そうに胸を張る。
「世話になっているつもりはないぞ」
「ふっ、些細なことに、人間は気づかずにいるものよ」
 キャベツを突き刺したフォークを振り回しながら、ふふん、と微笑むドク。
「居候の分際で吾輩たちの間に割って入ろうなど無謀にもほどがある」
「ドク、誤解を招く表現はやめてくれ」
 新聞に集中できない。食事の時は静かにという、小学校の教訓すら理解していないのだろうか。
「不潔ですわ!」
 だから言ったのに。
 記事に集中することにして、もう相手にしないことに決める。
(一面は、やはりこれか)
『サプライズ社最新機体は何処へ?』
――昨日の報道記者会見から一夜明けた今日、サプライズ本社前。多数の警官が警備する中、事件の現場検証が行われている。奪われた機種は同社が総力を結集して送り出そうしていた機体”アガメムノン”。強奪犯は午前0:00の予告通りにサプライズ本社を襲撃し、多数のDzoidの残骸を足跡に残して、夜の闇に消えていった。特甲課は今回の件について黙秘を通しており、早急な情報開示が叫ばれている――
 若干の脚色が入っているな、と思う。
 午前0:00に訪れたのは怪盗ピンク(目の前の少女)で、強奪犯はサプライズ本社に忍び込んだ鈴木――HORUSとかいうハッカーだ。その正体は不明で、その目的も不明。危険を冒してまで”アガメムノン”を手に入れたのは理由があるはずだが、手がかり一つ存在しない。社内に情報規制は敷いたのだろうが、時間の問題だろう。
 暫くはむやみに外を出歩くな、と如月から厳命されている。ふと視線をあげると、ホワイトマウンテンに見慣れない客の姿があり、慌てて目を逸らす。張られているのだろうが、やつらに与えられる情報などとくにない。昨日報道の自由、とか叫んで葬式帰りに突っ込んできた奴がいたが、一発殴ると逃げていった。週刊誌に暴力事件として描かれるのだろうが、そんなことはどうでもいい。
 俺たちは現場の人間だ。マスコミへの情報開示、交渉はすべて如月がうまくやってくれるだろう。現に、たかってくる報道関係者の量は知れた数だった。如月がうまく話をつけ、立ち回ってくれているからに違いない。
 ひょっとしたら、このみゅみゅという少女も、何かしらの考えがあって、如月がこっちに回してきたのかも知れない。
「なぁ、みゅみゅ、ちゃん」

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