「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

「ドクに一票」
 手を挙げる。
「アッシも!」
「あちきも!」
 揃って有効票を勝ち取ったドクは、さもありなんと胸を張る。
「ふっ。これこそ民意の勝利!」
「まぁ! ガリ、ドク、まさか逆らうつもりですの!?」
 目をつり上げた少女が、二人の反逆者にびしりとおたまを突きつける。
「オシオキですわ!」
 その言葉を聞いた途端、挙がった手が二つ下がった。
「馬鹿な!?」
 動揺を隠せないドク。
「当然ですわ!」
 おたまを振り回し、高らかに勝利宣言する少女。
 いつから俺の部屋は子供の遊び場になったんだ、と落ち込むナム。
「無効だ! 今の行為には邪悪な思念を感じる! 脅迫に基づく投票は公職選挙法違反で無効票だ!」
「そんなもの知りませんわ! 日頃の行いのたまものですの!」
 やつれた部下の二人は、まるで檻の中の動物のように見えない鎖でつながれていた。
 別に同情などせんが。
 散らかった食物を片付けるため、近くの棚からゴミ袋を引っぱりだす。
「別にあなたのためにつくったワケじゃありませんわ!」
「作ってくれと言ってもおらん!」
 とうがらしにねりわさび。
 アンコウの肝に青汁100%ジュース。
 ミンチにされたカツオのたたき、カラメルののったプリン一切れ。
 くそ、こっそりとっておいたのに。
「子供は子供らしくミルクでも飲んだら宜しいですわ!」
「吾輩を子供扱いするな!」
「ミルクは貴重なカルシウムも多くて身長だって伸びますのに!」
「おぬしだって充分ちっちゃいではないか!!」
 なぜマグロのカシラが転がっているんだ?
 競りせりでもみかけないほど立派なカシラをゴミ袋にぶち込む。
「子供のくせに!」
「人を見かけで判断するとは貴様こそオコサマだ!」
 牛乳パックは無事だ。口も開けられていない。
 使ってないのか? クリームシチューなのに。
「ナム! この女を追い出せ!」
「ナム様! この子と私どちらをとるのですの!」
「えっ? 俺?」
 二対のつぶらな瞳に責められる。

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