「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

「折角つくったのに!!」
 少女がバシャバシャと液体の表面をおたまで乱暴に叩く。
 飛び散る飛沫から距離を取る。
「分かりましたわ! 貴方がそうおっしゃるなら、これはガリとブッチョに食べさせますの!」
 床に転がった二体の死体が、びくっ! とあからさまに生きている反応を示した。
 ごろごろ転がり足元にまとわりついてくる。
「お、お嬢様が精魂込めて造ったでヤンス!」
「せめて一口なり食べるでゲス!」
「放せ餓鬼ども」
 まとわりつく蒼い顔の亡者を一蹴。
「お前等の主の料理だ。たっぷり味わって食うがいい」
「ご無体!」
「ナムサンは、人の道を踏み外してるでゲス!」
「何とでも言うがいい。俺は旨い朝飯を食いたいんだ」
 そう言って、身を翻した横をのろのろと通り過ぎていく小柄な影。
 寝ぼけたまなこで席に座り、欠伸を一つ。
「ご飯」
「はい!」
 嬉々として、シチュー入りの皿をテーブルにセットする少女。
 手元に用意されたスプーンを手に取ると、全員が見守る中、ぱくりと口に含む。
「むぐむぐ」
 まだ寝ぼけているのか、真っ赤なシチューを含んで平気な様子。
 ごくんと呑み込むと、またスプーンをすくって口元にもっていく。
 くあっ! とその目が見開かれた。
「げほぁ!!!!」
 喉元を押さえて悶え始める。
「おのれ、ナム! 毒を盛ったか!」
「いや、俺じゃないから」
 先に死線を彷徨った二人が、哀れな目ツキでドクをみる。
「なんだこれは! 吾輩が食べたのはなんなのだ!」
 と言って、ドクは目の前にある赤黒い液体を見た。
「シチューだそうだ」
「クリームシチューですのよ!」
 少女が嬉しそうに尋ねる。
「クリーム…」
 クリーム色すらしていないクリームシチュー。
「ではなぁい!!」
 テーブルごと皿をひっくり返す。
「まぁ! なんてお下品」
「このようなゲテモノ料理を食わせる輩に言われたくないわ! 手塩にかけた農作物がこの有様では、百姓どもも泣くか怒るか改憲を主張するぞ! 調理する人間くらい選ぶ権利を! 料理を粗末にするヤツ、ドク許さない!」

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