「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

 ぐつぐつと煮込まれたドラム缶から立ち上がる土色の煙。
「あら、起きましたの」
 おたまを持った女の子が煙の向こうにかすかに見える。
「朝食の用意ができていますわ!」
 目を閉じて開くのを何度か繰り返すと、見たくもない現実が見えてくる。
 死体は少女の部下のデブとヤセ男だ。床の上で苦しそうに呻いている。
 散らかった破片は食材の欠片。赤青緑と多種多様な破片の数々はもとの形すらわからないほど悲惨なむくろを晒している。
「リョウリ」
 オウム返しに呟く。
「みて分かりませんの? 特製シチューですわ!」
 喉の奥から異物感がこみ上げる。
「座って待っているが宜しいですわ! 一宿一飯の恩義ですの!」
 床を見る。
 腹を押さえて苦しんでいる大の男が二人。
「人の家で何をしている」
「朝食の用意ですわ」
 それは違うだろう、と目の前に倒れている二つの屍(もどき)を見て思う。
「ああー、ごほん。君はお客人なわけだ」
 説得というのは難しいことを、彼は経験から知っている。
 現場ではしょっちゅう暴力沙汰に発展だ。
「俺は、如月部長より、君のお世話を頼まれている。そういった類の事は、(これ以上被害が広がる前に)俺がするから」
「それでは私の気が済みませんわ!」
(俺の気が休まらないだろ)
 一寸だけ顔を変え、また元に戻す。
「君はお嬢様だったな。こういった経験は、無いんじゃないのか」
「北斗家の人間は試してから考えるですの」
(死人が出てからじゃ遅いだろ)
 犠牲者は二人で充分だ。
「遠慮なんか無用ですわ! 好きでやっているんですの!」
 おたまを鍋に突っ込み、毒々しい色の液体をたっぷり器に流し込む。
 みるだけで食欲を奪われる。
「いや、お手を煩わせたところ申し訳ないが、朝食は外でとることにしているんだ」
 起死回生の機転。
 やはり人間、追い込まれるほどに普段は思いもつかない事を考えつくものだ。
「駄目ですの! 外食なんて、日本人はおコメを食べないから過労で倒れたりしますのよ!」
「それは関係ない」
 いつも朝はパンとコーヒーだが、過労で倒れたことなど一度もない。
「第一シチューは和食じゃないだろ」

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