「-HOUND DOG- #echoes.」

第二話 アンチアンドロイドは羊を数えて眠る

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「…………」
 目を開ける。
 静かな朝。
 身を起こす。
 Tシャツ一枚にパンツ一丁。
 寝るときの格好だ。
「夢か」
 そうだな。
 枕元に置いた銃を見る。
 S&W M500ハンターマグナムリボルバー。
 手に取り、感触を確かめる。このずしりとくる重さ。
 生きているという実感だ。
 これがなければ、あのとき無事生還できなかっただろう。
――長い付き合いだな。
 ガチャリとシリンダーを振り出すとスイングアウト、銀色の丸渕が5つ現われる。
 M500ハンターMRは5発装填式リボルバーだ。イマドキ、弾数制限のきついリボルバーを扱うのは、趣味人か実務に乏しい日本警察くらいだ。
 さらに実弾銃より優秀なレーザーライフルや電磁石で高速弾を飛ばすリニアレールガンも市場に出回っており、世界的なシェアはこちらのほうが高くなりつつある。
 それでも、ナムはこの旧式の実弾銃を手放すつもりはない。
 戦場の友と同じように、戦場で扱った武器には特別な情がわく。自分の命を何度も救ってくれた相棒を、無下に手放せる者などそうはいない。
 第一そんなことをすれば、元の持ち主に失礼だ。
「4年か」
 戦場から離れて。
 暫くぶらつき、たまたまサプライズに拾われた。
 つくづく戦争というものがイヤになった時期だ。
 銃を扱う仕事から離れ、いつの間にか社長秘書などという肩書きまで手にし、その娘と恋に落ちた。
 社会的な栄誉をつかみかけた自分だが、気づけば、その胸にできていたのは大きな穴。フラットに流れる凹凸のない日常に嫌気がさしている自分。
 つくづく、俺は戦争屋なのだと思った。
――隊長は、何故、居続けられるのですか。
 部隊を離れるとき、我慢できずに尋ねた言葉。
――俺は、戦場でしか生きていけん。
 生粋の軍人らしい、そんな答えが返ってきた。
 何のことはない。
 自分も同じではないか。
 危険に身を置くことでしか、生きていることを実感できない。

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