「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

 如月に言われる。
 俺のプライベートを今まさに犠牲にしようとしてるくせに、と思う。
「歳は?」
「12」
 機嫌悪そうに答えられる。
「とても無理そうですが」
 真顔で如月に告げる。
「共同生活は辞令だと思いたまえ。全損益に君の人生すべてつぎ込んでも足しにならん融資を受けるためだ」
「俺は人柱ですか」
「私の口からこれ以上話すことはない」
 問答無用な一言を口にする。
「……名前は」
「みゅみゅ」
 少女が答える。
「みゅ――え?」
 少女の顔をまじまじと見る。
 聞き間違えただろうか。
「みゅみゅ」
 耳まで赤くして、同じ言葉を口にする。
 ナムは押し黙り、如月に目を向けた。
「北斗博士のご息女だ」
「俺に何を期待しているんですか」
「北斗博士の財産はこの少女がすべて相続している。父親と母親を亡くし、寂しいそうだ。君の愛で暖めてあげたらどうかね」
 この人は、どうしてこういうセリフをくそまじめな顔で言えるのか。
「そういえば、俺はこの子を」
「みゅみゅ」
 ナムは少女を見た。
「――みゅみゅ、ちゃんに、よく似た人間を、つい先日見た記憶があります」
「怪盗ピンクは私よ! 文句ある!!」
 噛みつかんばかりの勢いで、少女がいきなり怒りだす。
「部長、事態がさっぱり飲み込めませんが」
 如月は眼鏡を奥に押し込み、顔を伏せた。
「”アガメムノン”のハードウェア部に技術盗用が見つかってな。トロルどもが乗り出してきた」
怪物トロル?」
 突然の単語に、オウム返しに聞き直す。
「疑問の多い男だな」
「トロルとは、利益を上げる企業に特許侵害を訴えて賠償金を掠め取る米国企業についたあだ名だ」

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