「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

「その上で、給料の25%カットが決まった」
「何故ですか!?」
 立ち上がり、猛然と抗議する。
「理由は述べただろう」
「しかし、4分の一というのはあまりに非人道的では――」
「たったの6ヶ月だ」
 こういうときに、ぴくりとも笑わない如月の表情は妙な迫力を持つ。
 愛想という言葉を一切知らない男。
「我が社の経済的な損失に比べればどうということもない。人は水だけで1週間は生きていけるそうだ」
「……それを半年続けろと」
「君だけではない。特7課全員に科された処分だ」
 部下にまでか。今更ながらに、今回の件には容赦がない。
「これだけの処分で済んだことをありがたいと思うことだ」
「どういう意味です?」
 落ち込んでいるため、うつろなまなざしで尋ねる。
 如月は横に目をやり、おとなしいマルチーズのようにちょこんと座る少女をみる。
「彼女は我が社に融資を約束してくれた」
「は?」
 目を点にする。
 そのまま本人に向けると、ぷいと窓のほうへ逸らされた。
「嫌われているようですが」
「君が粗相をしたのだろう」
 如月は社に利益をくれる人間の味方だ。
「条件は、君がこの方と共同生活をすることだろうだ」
「何の冗談か分からないのですが」
「君は私が冗談を言う人間だと?」
「……いえ」
 なおさらタチが悪い。
「この方はあの”ブレインマイスター”のご息女だ」
「”ブレイン――なんです?」
「”ブレインマイスター”だ。知らないのかね?」
「ドク」
 困ったときの相棒頼み。
「ブレインマイスターは、Dzoidの生みの親、北斗博士の通称だ。Dzoidに関わるあらゆる理論を生み出した天才。その頭脳は人智の宝石としてつけられた」
 モニタの城壁の内側から声がする。
「以上、歴史上の人物Wikiより」
 ナムはその説明を聞いた後、少女の方を向き、首をひねる。
「娘、ですか?」
「他人のプライベートに立ち入るのはやめておきたまえ」

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