「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

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 課長室に戻ると、如月が待ち構えていた。
「どこに行っていたのかね」
 冷たい視線で詰問してくる。
「野暮用です」
「長く席を離れるなら、ホワイトボードに一筆書いておくべきだ」
「申し訳ありません」
 と言いいつつ、如月の隣に座る人物を見る。
 ピンクのワンピースを着た少女だ。
 顔かたちに見覚えがある。
「そちらは?」
「その話はこれからするところだ」
 ナムは口を閉じ、来客用に備え付けられた向かいの席に座る。
 目があうと、少女は慌てて目をそらせた。
 カタカタと音がしている方向を見ると、ドクが半ば篭るように自席の内側で作業している。
鈴木稔すずきみのるという人物だが」
 如月はいつも通りに冷静な声で話し始める。
「実在する人物であると判明した。ただし入社4、5日で、自己都合により無断休暇を取っている」
「出社拒否ですか?」
「本人は認証カードを落としたとうそぶいている。HORUSという輩はどこかでそれを拾って今回の件に利用したのだろう。驚くべきはその順応性だ。元は目立てない性格の日陰者が、すり替わった結果、実質的な課のサブリーダーとして”FAIRY”プロジェクトの根本設計をまかされている。普通なら気づくだろうに」
 と言って、如月は皮肉に笑う。
「君たちだけのせいではなかったにせよ、この件についてはDz犯罪に当たるとして責任の所在を特7課を主に置いた報道記者会見が行われた」
 全責任をうちにひっかぶせてきたわけだ。ナムは官庁の卑しさに苦笑いする。
 あの場にいた権介の扱いはどうなる。
「私が出なくて宜しかったので?」
「わざわざあんなものに時間を割く必要はない。代わりの窓際ならいくらでもいる」
 後で菓子折でも届けないと恨まれそうだな、とナムは思った。
「”アガメムノン”が奪われたことは、我が社にとって大きな痛手だ。これにより、上半期の決済では株主から大きな不評を買うだろう」
「すみません」
「過ぎたことだ。それと、警視庁から辞令だ。君は現在の”警部”職から”警部補”へと降格される」
「そうですか」
 特にどうという感慨もない。

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