「-HOUND DOG- #echoes.」
第一話 怪盗淑女
/ 21 / 課長室に戻ると、如月が待ち構えていた。 「どこに行っていたのかね」 冷たい視線で詰問してくる。 「野暮用です」 「長く席を離れるなら、ホワイトボードに一筆書いておくべきだ」 「申し訳ありません」 と言いいつつ、如月の隣に座る人物を見る。 ピンクのワンピースを着た少女だ。 顔かたちに見覚えがある。 「そちらは?」 「その話はこれからするところだ」 ナムは口を閉じ、来客用に備え付けられた向かいの席に座る。 目があうと、少女は慌てて目をそらせた。 カタカタと音がしている方向を見ると、ドクが半ば篭るように自席の内側で作業している。 「 如月はいつも通りに冷静な声で話し始める。 「実在する人物であると判明した。ただし入社4、5日で、自己都合により無断休暇を取っている」 「出社拒否ですか?」 「本人は認証カードを落としたとうそぶいている。HORUSという輩はどこかでそれを拾って今回の件に利用したのだろう。驚くべきはその順応性だ。元は目立てない性格の日陰者が、すり替わった結果、実質的な課のサブリーダーとして”FAIRY”プロジェクトの根本設計をまかされている。普通なら気づくだろうに」 と言って、如月は皮肉に笑う。 「君たちだけのせいではなかったにせよ、この件についてはDz犯罪に当たるとして責任の所在を特7課を主に置いた報道記者会見が行われた」 全責任をうちにひっかぶせてきたわけだ。ナムは官庁の卑しさに苦笑いする。 あの場にいた権介の扱いはどうなる。 「私が出なくて宜しかったので?」 「わざわざあんなものに時間を割く必要はない。代わりの窓際ならいくらでもいる」 後で菓子折でも届けないと恨まれそうだな、とナムは思った。 「”アガメムノン”が奪われたことは、我が社にとって大きな痛手だ。これにより、上半期の決済では株主から大きな不評を買うだろう」 「すみません」 「過ぎたことだ。それと、警視庁から辞令だ。君は現在の”警部”職から”警部補”へと降格される」 「そうですか」 特にどうという感慨もない。 |