「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

 意地悪なんかをしているつもりはない。生き残る確率を分析しているのだ。
「部下を失いたい上司など、どこにもいない。気分が落ち着いたら、現場に復帰してもらう。そのとき、もしまだ気が変わっていなかったら、考えよう」
 ナムは考えた。
 ”アガメムノン”。
 どうしてあんなものが、この国で造られたんだ、と。日本は、戦争をしない国ではなかったのか。
 理由は分かっている。
 戦争を否定することと、戦争のための道具を生み出すことは、次元が別なのだ。
 自国で造られた製品がどこか別の場所でどれだけ破壊活動を行おうと、それはすでに会社の手を離れた認識外。いわば、ユーザーの勝手。
 正義を掲げる国による制裁の道具に使われるという建前にした、利用手段についての黙秘。
 理想と現実の狭間で生み出された、利益優先を前提にした拡大解釈の果ての結論。
 通常通りに納入されたとしても、同じようなことが、別の国で起こっただろう。
――俺たちは、手痛いしっぺ返しを受けたのかもな。
 巨大な人型機械の残骸に目を向け、ナムはそこに、記憶にこびりついた硝煙の匂いをかぎつけた。

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