「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

「オイオイ、聞き捨てならないな。人の思い出にケチを――」
 …………。
 口を閉じる。
 だから、女って奴は嫌いだ。
「PT、次、決まっているんですか」
「いや、まだ――」
「わたしが乗ります」
 予想はしていた。
「適性検査で審査された結果で決める。お前が次点であるかはわからない」
 パイロットの欠員が出たとき、特7課発足時に採用された能力検査に基づいて次の搭乗者が決定される。定期的に実施予定であるが、まだ1年しか経っていないなら、最初のテストの結果から選抜すれば充分だろう。それによると柏原の適正レベルは、
「適性度B+」
 ナムは驚いた。
「何で知ってる?」
 適性検査の結果は個人情報に該当され、管理者以外の閲覧は出来ないようになっていたはずだ。
「人事部の友達に見せて貰いました。パイロットになれるレベルですよね」
 人事部は社員情報のとりまとめ役だ。個人情報の管理も一任されているが、他部署に漏らさないのが社内ルールとして徹底されている。
――どんな裏ルートを使ったんだか。
 他の人間にばれたなら、懲戒処分は必死だろう。
 この場に2人しかいなくて助かった。
「駄目だ」
「何故ですか」
「死人が増えるだけだ」
 死神がこちらを見ている。気落ちしている人間と同じくらいに、気負いすぎた人間にも、奴は取憑く。こそ泥と同じだ。狩りやすい獲物から狩っていく。
「暫く休め」
 秋元に言ったことを同じように告げる。仕事というのは、休むことなど本来許されない。だが、特7課では違う。部長が聞いたらお叱りを受けざるを得ないだろうが、人員の調整はすべて自分が最終権限を持っている。空いた穴なら、ふさぐ手段をひねり出す。
 そのくらい、課長が出来なくてどうする。
 胸もとにかくした、数枚の封筒が気になる。
 異動願いが4枚。退職願いが2枚。
 よくあることだ。
 人が死ねば、そういう結論を出す人間もいる。
「イヤです」
「なら辞令書でも書いてやろう」
「なんで――意地悪、なんか……」
 張り詰めた糸がふつりと切れたのだろう、か細い声で泣き始める。

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