「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

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 特7課のオフィス近く、歩いて10分ほどの距離に、彼らが乗る機体や車両を格納する倉庫がある。一等地の敷坪を割合安く借り受けられたのは、やはり借り物とはいえ、桜の代紋の効果が大きいだろう。
 そこへ、ナムは一人、歩いて入っていく。
 整然と並べられたPHOTNP83――通称『ナイト』。サプライズが民間公安部隊への参入を勝ち取るため、社をあげて設計、企画立案し、実現した最新鋭の技術の結晶だ。数多の傷やへこみは勲章。半壊した場合、サプライズ本社より専門の修理技術者が出張してきて修理に当たる。大破に陥った場合は、本社への直行便で修理搬入となるが、二日もすれば元通りピカピカの形に戻る。
 反対側には、車両の列。現場でバックアップに当たる専用のワゴン車両と、一台だけ、仲間はずれのように、旧世代のイチモツ、ナム愛用のミニパト(中古品)が並んでいる。実はこれだけ、彼の私物で、都会は駐車料金も高いのでここにこっそり置かせて貰っている。
 倉庫内は静かで、暗く、冷たかった。冷房を入れているのだろう。少し肌寒い。
 常備してある10台の『ナイト』のうち、1台は修理搬入として本社へ出張中だ。とりもちは本社から持ち帰りの際に取り除いた。自動洗濯器械『せんたくん』はなかなか素晴らしい機械だ。我が家にも一台欲しいが、いかんせん今の給料では手が出ない。
 蛍光灯のランプは、ほとんどが消灯している。修理作業か大掃除の時期でもなければ、倉庫の灯りが一斉につくことなどない。
 たった一ヶ所だけ、明るく輝いている一画がある。
 そこまで、靴音を響かせて歩く。
 気づいてくれるだろうか。
「柏原」
 声を掛ける。
「09番機の廃棄が決まった」
 静かに告げる。
 藤堂昭久が乗車していた機体だ。
「本社TS(テクニカル部門)によるとコアユニットの損傷が激しく、オーバーヒートによる極度の製品疲労で修理よりも廃棄すべきと判断された。だから、この機体はもう、特7課の倉庫ここには置いておけない」
 死体収集のためにコアユニットが外され、胸部に大きな穴の空いた『ナイト』を見る。
 まるで、目の前にいる柏原のようだ。
 彼女は、『ナイト』の足に背をもたれ、膝を抱えている。大人の女がスカートでそんな格好をしていると、
「パンツが見えるぞ」
 引きちぎられた頭部メインモニタはすさまじい握力で潰されていた。オーバーブーストを繰り返した電子系統はすべて焼き切れており、もはや動かすことは出来ない粗大ゴミとして、ただでさえ容量の少ない倉庫の一画を占めている。リサイクルできそうな部品を取り除けば、あとは丸めて捨てられる運命だ。

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