「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

 パタパタと、その間を急須片手に穂ノ原が駆け回っている。
「全員、いるか?」
 その雰囲気を打ち消すように、声を張り上げる。
「課長」
 藤谷主任が声を上げる。
「柏原さんがいません」
「そうか」
 冷静な調子で頷く。行き先に見当は付いている。
「まずは、この場にいる人間に伝えておく」
 部下たちから視線を浴びても、気圧けおされることなく声を出す。
「藤堂君のことについては、残念だった」
 キィ、と扉の開く音がして、ドクが出てきたのを、耳だけで聞き取る。
「彼は、優秀な社員だった。それは、この場にいる者は皆異論のないことだと思う」
「――アイツを死なせたのは、俺のせいだ」
 目を向けると、秋元が肩を落としていた。
 30代のはずだが、それよりはるかにひどく老けたように目に映る。
「止めたんだろう? 職務上必要な事は実行している。その点については、管理命令を無視し、独断専行した藤堂に非がある。おまえのせいじゃない」
「殴ってでも、止めるべきだった。Dzになんかのっていなけりゃ、それも出来たのになァ」
「秋元」
 ナムは冷えた声を出す。
「もしも、などという無意味なことに神経を費やすな。起きたことは金輪際永久に変わらん」
「しかし課長」
「暫く休め」
 発言を切り捨てる。
 酷なようだが、心の弱くなった人間は業務に支障を来しやすい。立て続けに死人になるのは、こんな人間だ。
 死神は、もろくなったその心によく鎌を振り降ろす。
「おまえが藤堂に目をかけていたのは知っている。あいつのことを思うなら、あいつの果たせなかったことをやり遂げてやれ。それが供養だ」
 我ながら、陳腐なセリフだ。
 この程度しか浮かばなかった己のボキャブラリの低さを嘲る。
 後ろに控えるドクに対しての視線が冷たかった。本人は反省しているが、反省は過去を変えない。背負っていく十字架を重くするだけだ。
 まったくもって、人死にという奴は始末が悪い。
「6ヶ月だ」
 視線を自分に集めるため、語気を荒くし言葉を発する。
「去年から今まで、死人が出なかった期間。結成から、これで2人目だ」
 過去1年間で、特7課の人間は職務上の”殉職者”を出している。業務上の過失事故や災害ではなく、犯罪者相手の商売だからこそ、ありえる数値だ。

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