「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

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「ふぅ」
 オフィスの自分の席に戻ってきたナムは、堅苦しいネクタイをゆるめながら黒い背広を机の上に放り投げた。
 気の重さをそのまま座席にのしかける。
 葬式に出てきた。
 藤堂昭久。
 入社3年目の若輩者だ。
 自分の言うことを気かず、一人で突っ走った結果がこれだ。
 家族に頭を下げた。
 何を言われたのかもう忘れたが、とにかくあらゆる罵声を浴びせかけられた。ひたすら低頭して責め苦を受ける。管理職の義務だ。それで、親御さんの気が晴れるなら、それでいい。
「くそ」
 気分が口に出る。
 机の上に置いてあったさまざまなモノを腕の一振りで払い落とす。気に入っていた陶器のコーヒーカップが高い音を立てて床にぶつかって割れた。
「すまん、ナム」
 いつのまに近くにいたのか、珍しく神妙な表情をしたドクが立っていた。
「遊びすぎた」
「今更どうなるものでもないだろう」
 感情を抑えた声は、冷たいものになる。
 ドクと穂ノ原の行きすぎた職務違反は、秋元他、現場にいた人間から聞いている。
「警察の仕事だ。藤堂は、”殉職”した。死は、国家がほめてくれるだろうさ」
 皮肉を言葉に乗せる。
「『ナイト』を使い物にしなくしたのは、我だ」
「そんなことはどうでもいい。どのみち、”アガメムノン”に『ナイト』では相手にならなかった」
 コクピットルームで見た惨状を思い出す。常人なら吐き気がするほど、ひどい有様だった。死体は肉片のいくつかがまわりに張りつき、見れる姿にするまで、部下は何度も吐いていた。
 だが、俺は。
「すべてが悪い方向へ転んだ。それだけだ」
 子供のようにうなだれるドクを置き、椅子から立ち上がる。課長という役職上、まだやることがあった。
 特7課のオフィスへ通じる取っ手に手を掛ける。扉をくぐるまでの間に、感情を押し殺した“課長”の仮面を身につける。
 オフィスは、重苦しい空気に満ちていた。
 葬儀へ参加した全員が黒いスーツか着物を身に纏い、喪に服している。主にパイロットをこなす社員については、次は自分の番ではないかと不安な未来に顔を暗くしている。

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