「-HOUND DOG- #echoes.」
第一話 怪盗淑女
「”クレイジー・マン”」 自課の課長は、周りからそんな陰口を叩かれている。巨大な電子機械の塊であるDzoidに、生身で、しかも銃一つでやり合う。傍から見れば、自殺志願者かただの馬鹿だ。 だが、それも結果さえ出せば箔がつく。今では、特7課の課長と言えば、”クレイジー・マン”というあだ名のほうが脅し文句につかえるほど。 同じDzoidに乗らなければ逃げ出すことしか考えない僕らと全く違う、あの人の思考はよく分からない。 コーヒー党で機械オンチである、ということくらいしか、僕らはわからない。 『気をつけなさい。課長の前でいうと怒られるわよ』 「あの人は怒りはしないよ。藤谷主任が怒るんだ」 Shoot! ギンッ。 「あの腕、盾代わりになってる」 『みたいね』 「なら、他のところは、もろいって事じゃない?」 『いい読みね』 「後ろをとる」 『どかん! といったげなさい!』 「どかん」 呟いた言葉は無視される。 『”ブレインマイスター”最後の傑作設計か。ボンクラ李が横取りしたくなる気もわかる。これだけレベルが高りゃな』 軽快に腕をブンブン振りながら、”アガメムノン”の操縦者がいたく感心した様子で声を出す。 息を呑む。 なんだあれ。なんであんなに、激しく動ける? 人間みたいに。 『運動性能はどうかな』 トントン、と超重量級の足が軽めに地面をノックする。裏へ回り込もうと高速移動する『ナイト』を頭部モニタがぐるりと追いかけ、足が地面から離れた。 ゴゥ! 特急電車が目の前に迫って来たかのようだった。 ぶつかる直前に、急ブレーキがかかる。 4つの複眼がクルクルと回りながら、固まった『ナイト』の様子を子細に観察する。 『何してんの! 逃げなさい!!』 ミナの声で、正気に戻る。 『早い。加速も僅か数ミリ秒か。こんなデタラメな機体、聞いたことがねえ』 自分の言葉を、目の前の怪物が代弁する。 後退するためにギアをチェンジ。アクセルを踏み込む。 『おっと、逃がさねえよ』 首筋が掴まれる。 『脊髄反射と同程度にアクションする機体か。こりゃ面白い』 |