「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

 ASS――AntiSockSavingによる反動軽減はあるものの、無反動化に失敗したいくらかの衝撃が機体を震わせる。巨大な分実際の銃撃による反作用は大きいが、ASSによってそれらのほとんどは内部で生み出される反作用の衝撃により吸収される。
 ホローポイント弾は”アガメムノン”の命中。形状を変えて拡張、マッシュルーミングされた弾丸が威力を発揮し、装甲の弱い間接部を破壊させ機動力を大きく削ぐ。
 はずだった。
『ヒュゥ! なんつー応答性能だ』
 巨大な腕が、膝の可動部をかばうようにガードしている。
『前兆感知の信用行動か。脳に信号が行くより早いんじゃねえか?』
 それでも、並のDzoidならかばった腕に損傷を負わせ、動揺を与える一因となるはずだった。
 真鍮製の弾頭がポロリと落ちる。着弾により変形し、威力はそのまま与えたはずだ。
 腕の装甲には、傷一つ見受けられない。
「うわぁ、ばけもん」
 独り言。
「どうする、ミナちゃん」
『……弾はあと五発。何とか命中させなさい』
「動かすの? 結構機体が限界だけど」
 オーバーブーストせいで内部気圧が上がっている。常時赤の警告灯が真横で明滅している。
『男なら根性見せなさい』
 機体に根性なんかあるもんか。
『一度口に出したんでしょ。ちゃんと実行してよね』
「……了解」
 コルト社タイプのリボルバカノンを手にアクセルを踏み込む。『ナイト』09番機は”アガメムノン”に向けて迂回しつつ近付く。
「先輩たちは?」
『通信入れてないの?』
「切っちゃった」
『ずっと同じ事繰り返してる』
「そ」
 なら、いいや。
「すぐ逃げるように言っておいた方がいいよ」
『なんでよ?』
 たぶん、勝てないから。
 課長の言い分が正しかった。秋本先輩の言い分も正しい。無謀な事はするものじゃない。
「でも、誰かが足止めしないと」
『そうよ』
 独り言のつもりが、口に出ていたようだ。
『課長がこっちへ向かってるそうよ。それまでなんとかするの』

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