「-HOUND DOG- #echoes.」
第一話 怪盗淑女
「地震?」 『聞いてくれよぉぉぉ。オレ、今日フンボルトペンギンに――』 「その話は後で」 切断。 特7課の内線網にブロードキャストの音声通信が入っている。 「地下から?」 P棟地下30階からだ。emergency? 着信をとる。 『奴が出る! 逃げろ! おまえらじゃかなわん!』 「課長? 奴って誰です?」 『その声、藤堂か!? 無事か!』 「ええ? はい、えっと、報告が――」 『すぐに待避しろ! 貨物リフトは駐車場への直通だ!』 「何の話しです?」 「”アガメムノン”が奪われた!」 ガコン―― 金網に囲まれた鉄柵の下が開き、暗闇から巨大な影がせり出してくる。 地下のリフトから運ばれてきた鉄の巨人は、悪魔みたいな形相で地上担当の特7課社員を睥睨した。 「でかい…」 第一印象でそうだったけれど、Dzoidに乗っていても大きい。実寸より、はるかに高圧的な威圧感を感じる。『ナイト』の全長は5.2M。倍違うだけで実寸以上の迫力。 黒い悪魔。 ”アガメムノン”は、自分を囲んだ柵を真っ黒な手で掴み、無理矢理いこじ開けた。柵には高圧電流が流れていたはずだが、僅かにバチリと黄色い火花を散らしただけで、鉄製の錠前は他愛なくひしゃげる。 『聞こえたか! 命を優先し――』 ブチッ。 切断。 「何のために俺たちで張ってたんだか」 独り言で呟く。このまま逃げられたんじゃ、苦労が水の泡だ。 無線通信をON。特7課専用周波数で音声発信。 「犯人を確保します。援護を」 『藤堂! 馬鹿を言え! 課長の指示に従え!』 秋本が無線でつばを飛ばしてくる。 「動ける機体、僕だけですか?」 『そうだ! 梅津の機体もとりもちで動けん!』 「バックアップは?」 『あたしがやる』 柏原美奈からの通話だ。 「頼む。あれ、たぶん、世の中に出すと良くないよ」 |