「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

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「どうしたんだろう」
 P棟地下30階の開発室に繋がらない。
 警備していたはずの特7課の同僚に連絡してみたものの、誰一人として出なかった。
 というより、やはり課長は携帯電話を持つべきだと思う。もしくは、通話機能を持つアクセサリの何か。
 非常事態に関わらず、連絡が取れないのは困った。とにかく、特7課の本部には連絡を入れておくべきだろう。
 セイレンさんが主犯であったと。
 平社員の藤堂昭久は、悪質な上司のせいでがらくたの見本市となった破壊Dzoidのサプライズ本社駐車場をみて、今日何度目かしれないため息をつく。
 これ、どうするんだろう。
 僕らのせいじゃないよね。すべて、イルカヤ・セイレンという一個の犯罪者がやり遂げた悪行なんだ。損害補償はすべてあの人の給料を天引きすればいい。
 近くで、自分が放り投げた『タンク』が原型すらとどめずバラバラに飛び散っている。徹底的というか何というか、痕跡まで残さず消失させるのがあの人のやり方らしい。自爆のときにコクピットルームが球状になって空の彼方に逃げていくのが見えた。追いかける気力なんてあるはずもない。
 オーバーブーストの結果、煙を上げる『ナイト』の操縦席の中、本部連絡の電話番号をモニタのリストから選び、リダイヤルCall
 トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル…
 残業して始末書を書いているはずの同期の斉藤がいたはずだ。今日片を付けるはずだった仕事が明日までかかることになり、泣きながら愚痴混じりに連絡してきた。明日はキリンとゾウがどうとか言ってたが、面倒くさいので適当に聞き流した。
 無茶苦茶だよなぁ、この仕事。
 普通の仕事よりも薄給で、休日も最低限レベルにこき使う。誇れるものは国家公安局の一部であるというろくでもない肩書きだけ。労働組合はあったはずだが、特7課についてだけろくな噂を聞いていないのか、門前払いで追い返される。
 元々自分はエンジニアを望んでいたのに、たった一回、出したばかりの新作Dzに不具合が、それも根本的なエンジン部分の設計不具合で、さらにはそこを担当したのが自分だったというだけで、こんな危険な職場に飛ばされる。これなら、東南アジア辺りに長期出張のほうがまだマシだ。
 まぁ、販売したDzすべて無料回収リコールという形になったが、人間なんだから一度の間違いくらいあるんじゃなかろうか。
 ピピピ…
 別の機体から着信通話。
 そっちに切り替える。
「はい。こちら藤堂」
『だめだ、とりもち、とれねーわ』
 頭をくした『ナイト』に乗った秋元先輩からだ。

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