「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

「尋ねて――答えなかったのは、お前だろ」
「まぁ、まぁ、そうだけどね。時と場合と見栄えを尊重したのよ」
 怪我を負った肩口を適当にシャツを切り裂き、片手を口で器用に縛る。
「ホルス」
「?」
「だから、おれの名前。つってもハンドルネームだけど。母国の神様の名前だ。しっかり頭に叩き込んでよ」
「HORUS――最近聞いた、名だな」
「あんた警察だろ? ちゃんと時事項は読んでおいたほうがいいぜ? ネットでニュースだって見えるだろ」
 ナムの記憶が確かなら、権助の言っていた企業一つを潰したハッカーの名だ。その正体が、こいつか。
 まだ若い、自分よりも年下の、垢抜けない黒人青年。
「つーことで、こいつはもらっていく。さよならバイバイ」
 ナムは手を放した。
 元の場所には、ナイフの刃がぎちりとめり込む。
 笑う青年。
「覚えてろよクソガキ!」
 落下に備えながら、ナムは遠くなっていくコクピットに向けて叫んだ。

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