「-HOUND DOG- #echoes.」
第一話 怪盗淑女
/ 17 / 黒い肌に黒い瞳。おまけに坊主頭だ。 「どうした? 思ったよりイロオトコで驚いたかい?」 「ま、色男といや色男だ。黒人とはな。流暢な日本語だ」 「あんただって黄色だろ」 ナムは銃口を突きつけたまま、黒人に抱えられた少女を見た。 「グルかとおもったが」 「このとおり。この子はもしものときの保険さ」 身の厚いアーミーナイフをちらつかせ、横っ腹でぺたぺたと頬をたたく。冷たい感触が現実味を持たせ、黄金色の瞳に怯えの色が混じる。 「12歳以下の拉致監禁ときたか。手当たりしだいの犯罪者だな」 「よく言うぜ。威嚇なしに、発砲してきたダーティー・ハリーさんよ」 呆れた様子で軽口を叩く男は苦しそうだ。 「安心しろ。戦場で弾に当たる確立なんざ20%だ」 「なら俺は、大当たりを引いちまったわけだ」 「……そうなるな」 ――命中したのか。 狭いコクピット内だ。戦場の理屈など当てにはならない。 第一、 新入社員相手に偉そうに説教たれてた自分は何様だよ。ってとこだ。 「投降したなら第一に怪我を見てやるが?」 「見逃してくれるならこの子を開放するぜ?」 互いににらみ合い、緊張の糸を張り巡らせる。 「この国は昔、人命は地球より重いだとか言って、テロリストの言うとおりにしたそうだ」 「よく出来たお偉様じゃないの。良心的に最善の選択だと思うぜ?」 「お前も軍属ならわかるだろう。超法規的措置は国の大敗だ」 国家の抱える救出部隊への不審からきた決断、それを行動で全世界に示した形になる。いや、それよりも、その結論は味方よりも敵に対して信頼を置いている。相手が約束を守ることを前提にした司法取引。 「ならそれを、二度目の慈悲を示してくれよ。国家としてのよ」 「言ったろ? 宮仕えじゃない。俺たちは犯罪者を検挙してこそなんぼなんだよ」 「人質殺すことになってもか?」 「死人に口なし。世論は美談で持ち上げてくれる」 「くくっ」 突然漏れた笑いに、ナムは一瞬内心を読まれたかと勘ぐる。 「何がおかしい」 「あんた、やっぱ俺たち向きだ」 「……そりゃどうも。悪いが職換えする気は毛頭ない」 |