「-HOUND DOG- #echoes.」

第一話 怪盗淑女

 お日様が恋しい、ホントに恋しい。最近、連日の虫取りバグにおわれて昼日中に外に出たことがない。お天道様はここ数日西と東くらいしか見たことがない。
「嬢ちゃん、ちょっくらそこを――どけッ」
 跳ね飛ばす。
 その瞬間、眼前の胸部ハッチに小さな穴が開いた。
 チュイン、と残響音を残し、5.00mmのFMJフルメタルジャケット弾頭が床にめり込んだ。怪我を負ったケーブルがバチッ、と青い火花を散らす。
 チュイン! チュイン! チュイン!――プラネタリウムの星を穿つがごとくに穴が開き、そのたびに内部のモニタ、計器、ケーブルが火花を散らす。
「ここを開けろ。鈴木」
 外から、それもまっすぐ前から張りのある男の声。
「お前には黙秘権がある。投降すればいくらか情状酌量もつけてやろう。気前がいいだろ?」
「な、何をするですの! おでこをぶつけましたわ!」
「……おでこくらいですんでよかったじゃないか」
 痛みに耐えて笑う。
「怪我、しましたの?」
 恐る恐る聞いてくる声に、「ダイジョブだ」強がりで返事をする。
 薬莢が堅い装甲にぶつかって地上へと落ちていく甲高い音。防音された密閉空間であるコクピットルームに良く聞こえるようにとの配慮だ。
「……陰険な奴」
「忠告はした。次は真ん中を狙う」
 ゴト。
 ハッチを隔てて銃口が押し付けられる音。
「3.8mm程度じゃ穴は空かんかもしれんが、俺の銃なら蜂の巣くらいは出来る。二度目の忠告はしないぞ」
「オーケイ。慈悲深きご忠告に感謝する」
 コクピットハッチの開閉レバーをオープン。
「嬢ちゃん、ちょっと」
「何ですの?」
 のこのこと近づいてきたところをがっしり掴んで引き寄せる。
「きゃっ――」
「悪い。人質頼むわ」
「は?」
 きょとんとした目の前に、銀色の鈍い刃が輝く。
「ひ――」
 目の前が二つに割れ、白色灯の明るい光が差し込んでくる。そこに、「よっ」と声を上げて乗り込んでくる男。
 凶器は寸分たがわず眉間をロックオンだ。
「それが貴様の正体か、鈴木」
 飛び込んできた刑事に向け、黒い肌の青年は尖った歯を見せた。

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